国会での憲法改正作業が具体性を帯びてきた。連休明けから衆院憲法審査会での本格討論が始まり、自民党は①緊急事態条項②環境権の追加③財政規律条項の3項目を優先的に検討するよう提案した。9条は当面封印、2回目以降の改正に回す方針が明確になった。
直近のメディアの世論調査は、改憲への賛否は拮抗する。毎日、NHK、読売は賛成が多く、朝日、日経、産経は反対が上回る。戦争放棄の9条に限れば、どの調査も反対が多く、賛成との差が開いた。解釈改憲で集団的自衛権行使を容認し、新安保法制の整備を急ぐ安倍政権の「きな臭さ」への反発、解釈改憲で間に合うなら9条改正は不要、との見方もあろう。封印は現実的対応だろう。
自民党提案の中では、大災害時に国会議員の任期延長などを盛る緊急事態条項の実現性が高そうだ。野党の一部も同調し、憲法記念日の新聞社説も、読売、日経、産経が新設に理解を示した。
東日本大震災では、広い範囲にわたり行政が混乱した。国の中枢が集まる首都直下の地震や、西日本から東海地方にかけ津波を伴う大災害が懸念される南海トラフの地震が近づいているとされる。緊急事態条項を検討しない方が怠慢だろう。
環境権は世間受けするが、環境問題が「公害」と呼ばれた時代に始まる古い議論だ。財政規律条項は厳格だと政策の機動性を縛り、抽象的だと効果がなく、文言が難しい。
思いつくまま手をつけると、下手なパッチワークのような憲法になりかねない。国民の賛否を問う最初の憲法改正のテーマを「統治システム」の改革に絞ってはどうか。
有事の際の統治のあり方を規定する緊急事態条項も入る。朝日と日経は、改憲に賛成する人に限り優先事項を聞いているが、いずれも「2院制など国会のあり方」がトップだ。
背景に、強すぎる参議院に起因する「ねじれ」時の国政停滞や、ひんぱんな首相交代への不満があろう。「1票の格差」で最高裁から何度も違憲状態と警告される状況への不信もあろう。ところが、一院制を主張する維新の党を除き、主要政党は素知らぬ顔だ。まず国会が、両院の役割分担の見直しなどを率先し、システム改革の範を示すべきだ。
やはり統治の根幹にかかわる「地方自治」の規定も、憲法92条は「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づいて法律でこれを定める」とそっけない。その拡充も課題になる。
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改憲派の最優先事項は「2院制など国会のあり方」
公開日:
(政治)
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土谷 英夫(ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1948年和歌山市生まれ。上智大学経済学部卒業。日本経済新聞社で編集委員、論説委員、論説副主幹、コラムニストなどを歴任。
著書に『1971年 市場化とネット化の紀元』(2014年/NTT出版) |
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