介護スタッフは遠慮がちに管理者に尋ねました。
管理者は即答できませんでした。
久々に帰る息子と会いたいと願う母心が痛いほど分かったからです。
同様のことは他の施設からも良く聞く話です。
対応もさまざまです。
感染リスクの高い地域の人と接触したスタッフに、一定期間休んでもらう施設もあるそうです。
私たちの施設でも国や県のメッセージに従ってスタッフの皆さんに、新型コロナウイルス感染防止対策として、さまざまなお願いをしてきました。
たとえば、「大人数でカラオケや飲食店に行かない」
「なるべく、リスクが高い地域への旅行は控える。行く場合は届けを出す」
「休憩時間は3密を避けて、できるだけ広い場所で取り、食事は対面を避ける」などです。
さらに、「家族などに発熱、風邪症状が出たらすぐに管理者に報告し、出勤可能かどうか指示を仰ぐ」
「家族などが県外に行ったり、あるいは県外から帰ったりする場合は、事前にその地域の直近1週間の人口10万人あたりの感染者数も確認して、届けを出す」
「家族などの勤務先に感染者が発生したら、速やかに管理者に報告をする」
など家族に関することもあります。
スタッフの皆さんにここまで報告してもらうことは心苦しいのですが、これも新型コロナウイルスを施設に持ち込まないための対策なので、理解してもらっています。
実は、インフルエンザなどの感染症についても、スタッフは家族が罹患した場合は報告をし、事情によっては休んだり一時的に利用者に直接関わらない業務をするなどの配慮をしていました。
だから、緊急事態宣言解除後も、私たちは買い物やランチ、病院に行くことさえ感染しないかと不安に思い、なるべく控えるようにしていたのです。
けれども、その後のGOTOトラベルキャンペーンで、「感染に気をつけながら旅行を楽しみましょう」と言うメッセージを聞いて、違和感はありながらもほっとしたのも事実でした。
ところが、7月21日広島県より「感染拡大に対する警戒強化宣言」が出て、「リスクが高い地域の移動や施設の利用は控えるように」とのことです。
制限付きですが、利用者と家族の面会を開始した矢先のことでした。
そのため、再度面会禁止とした施設もあると聞きます。
実際、地方にも新型コロナウイルス第2波は忍び寄っています。
懸念するのは、家族などの面会を制限しても、利用者が新型コロナウイルスに感染しないはとは言えないことです。
スタッフが無症状でも新型コロナウイルスを持ち込むリスクはあるからです。
なので、私たちはいつも緊張しています。
ですから、日々健康チェックをして自制した生活を送っているつもりですが、緊張にも限界があります。
まして、新型コロナウイルスと長期間付き合う必要があるのであれば、100パーセント完璧な感染防止対策を目指すことは到底できそうもありません。
だから、誤解を恐れず書くと、再度緊急事態宣言などが発令されないかぎり、新型コロナウイルス以前のようにプライベートを楽しみ、緊張から自分を開放する時間を持つことも、ウイルスと共存するためには必要だと私は思うのです。
もちろん、3密に気を付け、マスクをして、手指消毒を励行し、感染リスクの高い場所に行かないように気を付けながらですが。

この連載をベースにした『尊厳ある介護 「根拠あるケア」が認知症介護を変える』(岩波書店、本体1800円)が出版されています
とにもかくにも、私たちは利用者を新型コロナウイルスから守って、安心して働きたいのです。
そのためにも、ワクチンなどない現状であれば、厨房スタッフが定期的に検便をするように、高齢の利用者に接する私たちにも定期的にPCR検査をできる仕組みがあればと願うのは私だけでしようか。
冒頭の東京の息子さんは、母の仕事を考えてお盆の帰省を諦めたと聞きました。
「帰ってきてもいいよ」と、スタッフも言わなかったそうです。