熊本県天草市が導入を進めている防災無線の入札で、市が定めた基準価格を大幅に下回る企業グループが落札した。同市の不透明な対応ぶりに議会関係者など地元で不信感が広がっている。
雲仙など活火山を抱える天草市は、2014年に防災行政無線の導入を決めた。屋外のスピーカーから緊急放送をするほか、住民の自宅に受信機を配置し、市からの緊急放送を伝えるためのシステム。平常時には市からの連絡手段としても使用する。
2015年10月の入札には、NTT西日本・九電工、富士通ゼネラル、NEC、日立国際電気を中心とする4つの共同企業体(JV)が応札した。NECを中心とするJVが落札している。
問題は、この落札価格が、市が設定した「低入札価格調査基準価格」を大幅に下回る低価格入札だったことだ。基準価格が18億1244万7千円だったのに対して、落札価格は14億9300万円だった。市が積算した予定価格は25億8921万円で、調査基準価格は予定価格の70%で設定されているが、落札価格は予定価格よりも5割引きに近い。
また、2番目に安い金額を提示した日立国際電気グループの20億7136万8千円よりも約6億円も安い価格である。他の2グループも20億円台であり、NECグループだけが飛びぬけて安い状態だ。この金額規模の入札で1位と2位の金額差が6億円も違う、というのは普通ではない。
入札は価格だけでなく、工事や製品の品質なども評価する総合評価方式。通常であれば、システム全体の品質や安全性を保つための基準価格を下まわれば、失格か減点となるはずが、市はむしろ加点対象とした。
低価格に関し市は10月16日に改めて、低価格入札の調査を実施して報告書をまとめた。市議会に10月下旬に報告しているが、簡単なヒアリングだけで「契約内容に適した履行がされる」と判断している。結果的に落札者は変わらなかった。
また、落札者は落札後の工事や受信機の手配などが滞っているもようで、本来なら今年3月末に完了するはずの工事がまったくと言っていいほど進んでいない。不透明な入札に反発した地元業者が、落札者に協力を拒否していることも工事の遅延に影響しているとの見方もある。
加えて、工事仕様についても当初の予定から変更があった模様で、その理由が落札価格が低すぎて、当初の仕様を実現する事が出来なくなったとの話も出ている。これは、正に「安かろう、悪かろう」の見本とも言うべき入札と言えるのではないだろうか。
更に問題なのは、今の状況では確実に年度内に工事が終了することは無く、年度末工事完了を条件とした国からの補助金の支給に影響が出ると思われる。ニュースソクラの問い合わせに対し市は「九州総合通信局と協議しながら進めていく」とだけ答えている。