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成熟市場で、「シェア」よりモノをいう「企業価値」

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「わが経営」を語る アサヒグループホールディングス・泉谷直木会長兼CEO②

公開日: 2016/08/28 (ビジネス)

写真:木内正隆 写真:木内正隆

森 一夫:「わが経営」を語る (経済ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)

 ――泉谷さんは2010年3月に旧アサヒビールの社長に就任して、翌11年7月に現在のアサヒグループホールディングスを設けて純粋持ち株会社の社長専任となりました。傘下の事業会社になったアサヒビールの社長は、現在の小路明善社長に委ねましたね。

 世間の通例では、持ち株会社を作っても、社長は主力の事業会社の社長を兼務するのが多いですね。私は2つの理由で、兼務は無理だし、どちらも中途半端になると判断しました。

 ビール会社の社長はトップセールスの仕事がものすごく多いのです。毎晩のように仕事上飲まなければならないし、全国を回らなくてはいけない。まず時間的に両立させるのは難しい。

 2つ目に、持ち株会社は事業会社とは役割が本質的に違うのです。日本の持ち株会社が一般にあまりうまくいかないのは、理由があると思います。要するに、日本企業のコーポレート・ガバナンス(企業統治)には、株主や資本市場を意識した取締役会機能が実質的に無かったからです。

 当社でも、最近まで配当性向を上げると言うと、資金の外部流出を増やすという議論になりましたからね。資本市場とWin-Winの関係をどうやって作るのかという発想がない。とにかくシェアを高めて業績を上げれば、株主にがたがた言われる筋合いはないとの考え方がありました。

 事業のグローバル化を図るには、同時に経営をグローバル化しないとできません。そのために企業価値をいかに上げるかが、持ち株会社本来の役割です。資本市場にどう対応して、中長期の戦略をどのように練り、経営資源をどう配分するか、などを担います。

 これを真剣にやらないと、持ち株会社の仕事は事業会社に吸収されてしまいます。両社をはっきり分けなければならない。たまたまビール会社を託せる小路君がいたので、持ち株会社を作れたのです。

――社長就任から純粋持ち株会社制に移行して現在の会長兼CEOまで、一貫した経営の考え方があるようですね。

 サラリーマンをずっとやってきて、実は私は「初代」の仕事が多いのです。課長は初代広報企画課長で、経営戦略部を作って初代の部長、役員になったときもグループ戦略本部を作り初代本部長でした。社長になって作った現アサヒグループホールディングスはもちろん初代社長です。

 なぜこうなったのかと言いますと、この40年、世の中が変化する中で、会社も変えて行かなければならない。その先頭に立とうと欲するものですから、どうしても新しい部署が必要になります。当時の経営トップがそうした問題意識を持っていたので、話を聞いてくれて、「お前、やれ」という指示も下りてきたのです。

 変化を振り子にたとえて話す人がいますけど、この20年くらい、振り子の振れ幅の大きな時代に入ってきました。経営者はややもすると振り子の重りの方に寄って、自分も一緒に振られて大きな振れ方に翻弄されがちです。私は振り子の支点に近い方で仕事をしようと意識してきました。

 これなら変化に振り回されて後追いになる恐れは減りますが、変化を具体的に示す振り子の先端からは遠くなります。このため全体の動きを見据えながら、実態をつかむ分析が必要になってきます。若いころから、先見性や予測、仮説が経営には不可欠の要素だと思ってきました。

――狙いは変化の先取りですか。

 先進性のある会社にして、社員が胸を張って働けるようにしたい。しかし社員だけが喜んでも駄目です。そこで「SS経営」という言葉を作りました。「ステークホルダーズ・サティスファクション経営」です。つまりお客様、社員、お取引先、地域社会、最後に株主さんと、それぞれ満足させる経営を目指したのです。

 かつては市場が拡大していましたから、シェアが上がれば、売り上げも増えて、飯が食えました。しかし今は市場が増えないので、シェアが上がっただけでは売り上げが増えない。だから企業価値を新しい価値基準にするわけです。企業価値には財務的な価値と社会的な価値の2つがあります。

 この2つを高めることによって、長期安定成長を図れます。とはいえ、こういう考え方は社内になかなか伝わらず、徹底できないんです。やはり、みんな変わりたくないですからね。当社は15年、最高益を更新しています。その中で健全な危機感を持ってもらうのが大事なのですが、なぜ伝わらないのか。一つには論理だけでは弱いためです。

 役員や上の方は社長が言えば「はい、わかりました」と聞いてくれますが、現場に行くと重い現実に押し返されます。「それは机の上で考えたことでしょ。ご本社様の理屈でしょ」になってしまいます。

――現場は、今の何が問題なのかと。

 具体的に変化した事実を見せなければ理解されません。例えば株式時価総額は、以前、7000億―8000億円だったのが、今1兆6000億円とか1兆7000億円になっています。これによって企業価値とはこういうことなのだと分かってもらえます。

 また頭で死ぬほど考えたといっても、そのまま話しては駄目です。足腰を使って現場を歩き、五感を働かせて現場の感覚をつかむ。それからやっと口に出すと、言葉が上滑りにならず、いわば言霊になって、心に響くものになると私は思っています。

 内容は同じでも、現場は自分たちのことを分かって話しているなと思って、聞いてくれるでしょう。努めて目線を合わせて話すようにしてきました。やはり経営は知と情が一対なのです。
(次号に続く)
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森 一夫:「わが経営」を語る(経済ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1950年東京都生まれ。72年早稲田大学政経学部卒。日本経済新聞社入社、産業部、日経BP社日経ビジネス副編集長、編集委員兼論説委員、コロンビア大学東アジア研究所、日本経済経営研究所客員研究員、特別編集委員兼論説委員を歴任。著書に「日本の経営」(日経文庫)、「中村邦夫『幸之助神話』を壊した男」(日経ビジネス人文庫)など。
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