今年3月に開催された石油輸出国機構(OPEC)や非加盟国のロシアなどで構成されるOPECプラスで、減産協議が決裂し、サウジアラビアなどが増産方針に転換したことに加え、新型コロナウイルスの感染拡大でパンデミック(感染症の世界的な大流行)を抑える対策で経済活動が停滞し、エネルギー需要が激減した。4月20日のニューヨーク原油先物市場では、代表的な指標となるウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)の当限(5月限)が暴落し、終値ベースで前週末比55.90ドル安の1バレル=マイナス37.63ドルを付けた。WTI価格がマイナスとなるのは、ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)にWTI原油先物が上場された1983年以来、初めてのことだ。
全米で石油・天然ガス生産量の5分の1を占めるテキサス州でも、原油暴落の影響が顕著となっている。『The Midland Reporter』(MRT)によると、4月第4週の1週間だけで、主要生産地であるパーミアン盆地でシェール開発に関わる企業の6割強が、リグ(石油掘削装置)の稼働停止に追い込まれているという。
人員整理も本格化し始めた。The Texas Workforce Commission(TWC=テキサス労働力委員会)はこのほど、同州において石油&天然ガス業界に従事する労働者のレイオフ(一時解雇)状況(4月24日現在)を公表した=以下のグラフを参照。この時点のレイオフでダントツなのが「NexTier Oilfield Solutions」だ。すでに1,000人を超えている。

米国でシェール開発が活況となった2014年春、原油価格の上昇にともない、砂生産・加工企業の株価は右肩上がりを続けた。ニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場するSilicaの株価は当時、同年5月前半に45ドル近辺で推移していたが、原油高にともない、8月11日には60ドル半ばまで上昇した。飛ぶ鳥を落とす勢いだったSilicaの株価は現在、1.45ドルの水準まで下げ、危険水域に入っている。
TWCが公表したリストには、Baker HughesやHalliburtonといった油田サービス大手も含まれる。Halliburtonは15人のレイオフにとどまっている。ただ、「巨大企業にとり、15人はリストラのうちに入らないだろう。新型ウイルス感染の収束見通しが不透明なため、一段の原油安水準が続けば、リストラされる従業員は一気に増加する」(国内のエコノミスト)といった声も聞かれる。
ところで、米エネルギー業界ではいま、次の破綻企業、買収されるシェール関連企業にかかわる話題で持ち切りという。前述の『MRT』報道によると、最近発表されたレポートで、米国でシェール開発事業を展開する、以下の企業が予備軍として名前が挙がっているそうだ。
それによると、Centennial Resource Development、Energean Oil&Gas、Jagged Peak Energy、Laredo Petroreum、Matador Resouces、Persley Energyのほか、WPX EnergyやCallon Petroreumも加わるとしている。
また、Seaport Global Securitiesは、Resolute Energy、Abraxas Petroreum、Halcon Resources、Contango Oil&Gasを付け加えた。
これらのうち、Contennial、Callon、Abraxasの株価はいずれも1ドルを割り込んでいる(4月27日現在)。筆者は3社に経営状況を問い合わせたが、いずれからも回答を得られていない。
今後数年内に米国のシェール関連企業全体の債務(300億ドル超)が満期を迎える。米独立系シェール企業の多くが、破綻したホワイティングを連想し、「明日は我が身」と危機感を募らせているようだ。
「米国の偉大な石油・ガス産業を落胆させない」-トランプ米大統領は4月21日、エネルギー産業への資金支援を急ぐため、ブルイエット・エネルギー長官やムニューシン財務長官に指示したことを明らかにした。
新型肺炎の感染拡大に対する収束のメドが見通せず、エネルギー需要の長期的な低迷で、石油の供給過剰状態が続くとの見方も根強いなか、目先の原油相場の反転を予測する専門家はいない。
こうしたなか、シェール関連企業の新たな経営破綻に関するニュースが飛び込んできた。テキサス州ケイティに本社を置くDiamond Offshore Drilling(DOD)が4月27日、米連邦破産法第11条を申請したという。
DODは、上記のリストに社名が挙がっていない。「どのシェール企業がいつ破綻してもおかしくないということ。連鎖倒産の始まりかもしれない」(前出の米国のエネルギー・アナリスト)。
トランプ政権による支援策が米エネルギー産業の起死回生策となるか、予断を許さない。コロナウイルス感染防止の対策と同様、時間との闘いとなっている。待ったなしの状況だ。