ダイハツ工業が2021年12月20日にフルモデルチェンジした軽商用車「アトレー」が発売1カ月で月間販売目標の8倍となる約8000台を売り上げ、話題となっている。姉妹車の同「ハイゼットカーゴ」と「ハイゼットトラック」も月間販売目標の約2~4倍と好調だ。
一体なぜ今、ダイハツの商用車が人気なのか。アトレーは軽商用のワンボックスバン・ハイゼットカーゴの乗用タイプだ。アトレーは2005年デビューの先代は5ナンバーの乗用車で、商用車(4ナンバー)のハイゼットカーゴとは装備もナンバーも異なる軽ワゴンだった。
ところが今回のモデルチェンジで、アトレーは4ナンバーとなり、乗用タイプながら厳密な定義では商用車となった。それにもかかわらず、アトレーはビジネスユースではなく、レジャー用など個人ユーザーに売れているようだ。
新型のハイゼットカーゴとハイゼットトラックがモデルチェンジ直後で売れているのは納得がいく。ハイゼットは1960年に初代が誕生。日本の軽トラック・バンはスズキキャリィ・エブリイ、スバルサンバー、三菱ミニキャブなどがあるが、サンバーはハイゼット、ミニキャブはキャリィ・エブリイのOEM(相手先ブランドによる生産)となって久しい。
ホンダがアクティの生産を中止した後、このクラスは実質的にダイハツとスズキが支配し、首位争いを演じている。
先代のハイゼットカーゴとトラックは長寿モデルで、今回の11代目は17年ぶりのフルモデルチェンジだった。軽商用車は軽乗用車に比べモデルチェンジが少ないため、ライバルに対する競争力を長く保たなければならない。
このためダイハツは今回のモデルチェンジで他社をリードすべく最新技術を盛り込んだ。とりわけハイゼットカーゴは「小口配送や建設業など多くの荷物を効率的に積みたい」という現場のニーズに応え、軽商用車(正確には軽キャブオーバーバン)として「クラス最大の積載スペース」を実現したという。
これは新開発のCVT(無段変速機)を小型化して床下に搭載。車体側面やバックドアの傾きを限界まで垂直にして車体構造をスクエア化し、クラス最大の荷室長、荷室幅、荷室高を実現したことで達成した。
乗用タイプのアトレーも「ハイゼットカーゴの積載量と積載スペースを最大限活用するため、4ナンバー(商用車)にした」という。
この新型アトレーが月間販売目標の1000台に対し、発売後1カ月で約8000台売れたのは、この「広くてフラットな荷室空間」がアウトドアやレジャーで使いやすいからだろう。
ダイハツによると、新型アトレーは「アウトドアやワーケーションなど近年の新しいニーズに応え、家、職場に次ぐ自分だけの『第三の居場所』になっている」という。
ワーケーションとは観光地やリゾート地でテレワークを活用し、働きながら休暇をとることだ。まさにコロナ禍が新型アトレー人気を押し上げたということか。
新型アトレーは4ナンバーの商用バンであるにも関わらず、そのスペースの広さから「動く個室」というイメージなのだろう。1月の東京オートサロンでもダイハツはアトレーベースのキャンピングカーなどを出展していた。新型アトレーは「第三の居場所」となりうるスペースの確保と、巧みなイメージ戦略で、若者やファミリー層のニーズを掴んだといえそうだ。
ダイハツのクルマ、しかも軽商用車が予想外の売れ行きで話題となるのは珍しい。ライバルのスズキにも軽ワンボックスタイプのエブリイがある。しかも、エブリイには4ナンバーのバンだけでなく、5ナンバーのワゴンも存在する。アトレーの売れ行きしだいでは、スズキも今後、エブリイのワゴンを強化してくるかもしれない。