トヨタ自動車が若者らをターゲットに「トヨタスターレット」を復活させることになった。と聞いて心が躍るのは、1970~90年代に青春を過ごした「昔の若者たち」だろう。
残念ながらトヨタが復活するスターレットとは、国内向けではない。9月中旬の南アフリカを手始めに、47カ国のアフリカ市場で、スズキがインドで生産する小型車「バレーノ」をOEM(相手先ブランドによる生産)で供給するのだという。
スターレットは1973年に初代が「パブリカ・スターレット」としてデビュー。就職して免許をとった若者らが最初に購入する「エントリーカー」として、トヨタの中ではカローラの下に位置する最も安価でコンパクトな小型車だった。
1978年発売の「KP61型」の2代目は、スターレット最後の後輪駆動(FR=フロントエンジン・リヤドライブ)モデル。ライバルの「日産マーチ」や「ホンダシティ」などが前輪駆動(FF=フロントエンジン・フロントドライブ)となる中、スターレットはこのクラスで国内最後のFRとして、モータースポーツ愛好家に人気だった。筆者もその一人で、「スターレット」と聞くだけで青春時代がよみがえる。
1984年発売の3代目からスターレットも時流に合わせFFとなったが、1999年に5代目がヴィッツ(現ヤリス)にバトンタッチするまで、スターレットはちょっとスポーティーなエントリーカーとしてライバルをリードし続けた。
今回、トヨタがアフリカ市場でスズキ バレーノをトヨタ スターレットとして発売するのは、アフリカでは今もスターレットの知名度が高く、中古車も多く残っているからだという。
トヨタとスズキは2019年3月に資本業務提携し、トヨタがスズキ株を4.9%、スズキがトヨタ株を0.2%保有する「株式持合い」の関係にある。
今回のバレーノのOEM供給も2019年3月の両社の合意に基づくもので、実際には豊田通商がアフリカでの販売を担当する。
豊田通商は2019年1月にトヨタからアフリカでの販売業務を全面移管されている。豊田通商は「近い将来、アフリカで中間所得層が拡大することを見据え、アフリカ全土でトヨタブランドの販売チャンネルを生かして、小型車の販売とアフターサービスの強化を図っていく」という。
アフリカでトヨタがスターレットとして発売するバレーノは、日本向けにもスズキがインドで生産し、2016年から2020年7月まで輸入・販売した。しかし、日本での人気は今一つで、知名度も低かった。その分、インドやアフリカなど新興国に販路拡大を目指すのだろう。
バレーノは全長3995ミリ、全幅1745ミリと、全幅はかつてのスターレットに比べると広いが、全長は当時とほぼ同じくらいのコンパクトさを維持している。アフリカでは1.4リッターのエンジンを搭載し、4速ATと5速マニュアルミッションを用意する。
豊田通商は今回のスターレットだけでなく、「今後もスズキと連携し、SUVやセダンなどの小型車のラインナップを拡充していく」という。
まずはアフリカの中間所得層に「スズキ製のスターレット」が受けいられるか。今後のアフリカ市場の動向に注目したい。