トヨタ自動車は「プリウス」と並ぶハイブリッドカー(HV)専用の「アクア」を2011年の初代登場以来、約10年ぶりにモデルチェンジした。
2代目アクアはキープコンセプトで、ボディーサイズやデザインは、ほぼ初代を踏襲。世界初となる新型のニッケル水素電池を搭載したことで、リッター当たりの燃費は35.8キロ(WLTCモード)を達成した。
これは初代に比べ約20%の向上で、トヨタ社内のライバルである「ヤリスハイブリッド」の36.0キロ(同)と並び、世界トップレベルの低燃費となった。
初代アクアは2011年、プリウスより一回り小さなハイブリッド専用車として登場。日米を中心にこれまで世界で187万台を販売したトヨタのベストセラーカーだ。
しかし、トヨタではカローラやヤリスにもHV仕様が登場し、初代アクアが長くモデルチェンジしないことから、「2代目アクアは存在しないのではないか」との憶測もあった。
結果的に2代目のアクアは、トヨタが2020年2月に発売した小型ハッチバックの世界戦略車ヤリス(旧ヴィッツ)とプラットフォームを共有し、開発も同時期に並行して行ったという。
トヨタの開発エンジニアによると、アクアのモデルチェンジが発売後10年と大幅に遅れたのは「モデル末期となっても初代が売れたから」で、「アクアとヤリスの一本化も議論したが、ヤリスとの棲み分けは可能と判断した」という。
それではヤリスと新型アクアの違いとは何か。トヨタ幹部はベーシックカーのヤリスについて「デザインが個性的で、走りのイメージが強く、運転を楽しむクルマだ」と説明する。これはトヨタがヤリスで世界ラリー選手権(WRC)を戦い、多額の宣伝費をかけていることからも明らかだ。
これに対し、2代目の新型アクアは「ヤリスよりも洗練されたデザインと上質な乗り心地を狙っている」という。ヤリスが若者らのエントリーカー(初めて所有するクルマ)需要を狙っているのに対し、アクアはプリウスなど上級車からのダウンサイジング需要を見込んでおり、ターゲットとする客層が違うそうだ。
世界的に見ると、排気量1リットルから1.5リットルクラスのハッチバック市場は大きく、「同じくらいの大きさのクルマでもヤリスとアクアの違いを出すことは可能」と、トヨタ幹部は自信たっぷりに話す。
具体的にどういうことなのか。両車の違いはスタイルだけでなく、今回のモデルチェンジではメカニズム面でも明確になった。ヤリスとアクアは同じプラットフォームを採用していても、HVシステムなどが異なっているのだ。
ヤリスがリチウムイオン電池を搭載しているのに対し、2代目の新型アクアは「バイポーラ型ニッケル水素電池」と呼ばれる電池を世界で初めて採用した。
一般に最新のHVや電気自動車(EV)にはリチウムイオン電池が使われており、ニッケル電池は安いが旧式で、性能が低いというイメージがある。
この点はトヨタも認めており、開発エンジニアは「一般にリチウムイオン電池の方が進化していると思う人が多いだろうが、実際はそうでもない。今回アクアに採用したニッケル水素電池は従来型に比べ出力が約2倍に向上したほか、電気だけの走行可能速度域が広がった。トヨタは適材適所で電池を使い分けている」と説明する。
世界初という、このバイポーラ型ニッケル水素電池の技術は、トヨタだけでなく、長年にわたって電動フォークリフトの電池開発を行ってきた豊田自動織機の技術を取り入れているのだという。
このほか新型アクアはアクセルペダルを緩めるだけで回生しながら減速し、ブレーキペダルを使わなくても停止できる「快感ペダル」をトヨタで初めて採用した。
「快感ペダル」とは今回トヨタが初めて名付けたネーミングで聞き慣れないが、これは日産が「ノートeパワー」や「リーフ」などの電動車に採用するワンペダル感覚の「eパワードライブ」(リーフは「eペダル」)に近い。
アクセルを離した段階で回生を強く働かせ、リーフの場合はブレーキペダルを踏まなくても停止することができるシステムだ。
日産によると、リーフの場合、「アクセルを戻すだけで一般的なブレーキングと同等の減速感(最大0.2G)を発生する」という。このため状況しだいではアクセルとブレーキペダルを踏み替える必要がない。
ガソリンエンジンで言えば、アクセルを放した瞬間に強力なエンジンブレーキが効き、そのまま停止するようなものだ。
トヨタは「HVの回生を使ったブレーキという点では日産のノートeパワーのシステムに近いが、我々は助手席の人が酔ってしまうような強い回生はしていない。ペダルを踏み換えることなく、安心して使えるペダルになっている」と説明する。
筆者は日産リーフで何度かワンペダル仕様をテストしたが、ワンペダルに設定するとアクセルを離した瞬間の回生が強く、交差点などで停止するには慣れが必要だと感じた。
今回は残念ながら新型アクアをテストする時間がなかったが、トヨタが初めて導入した「快感ペダル」なるものの真価を早く試してみたい。
新型アクアはホンダフィット、日産ノートeパワーなどがライバルとなるが、燃費の差は明らかだ。むしろ最大のライバルはプリウスやカローラ、ヤリスなどトヨタ社内の同門HVだろう。
ヤリスの国内販売目標が月間7800台に対し、新型アクアは9800台と強気だ。初代アクアは世界に140万もの保有台数があるといい、代替え需要も見込まれる。果たしてユーザーは新型アクアをどう評価するのか。市場の反応が気になるところだ。