トヨタ自動車、マツダ、SUBARU(スバル)、ヤマハ発動機、川崎重工業の5社はこのほど、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)実現に向け、内燃機関(エンジン)で次世代燃料や水素を活用する取り組みを共同で行うと発表した。大手メディアの注目度は今ひとつだったが、5社連合の発表は、ちょっとしたサプライズだった。
レーシングスーツ姿のトヨタの豊田章男社長を中心に、5社の社長が顔をそろえ、しかもサーキット(岡山国際サーキット)で会見するのは異例だ。5社の社長の発表会見を聞いて、筆者は「内燃機関の未来は決して暗くない」と感じた。
大手メディアは日本経済新聞が「トヨタ主導の脱炭素エンジン競争、マツダ・スバルも参戦」(2021年11月13日、電子版)などと伝えたが、いずれも地味な扱いだった。
大手メディアは電気自動車(EV)がカーボンニュートラルの本命で、トヨタのように既存のエンジン車にこだわるのは時代遅れと言いたいのだろう。でも、5社の取り組みを見る限り、必ずしもそんなことはない。
筆者が最も注目したのは、マツダが「使用済み食用油や微細藻類油脂を原料とした100%バイオ由来の次世代バイオディーゼル燃料」を使用し、11月13日と14日に岡山国際サーキットで開催した「スーパー耐久レース」に参戦。22年からフルシーズンの参戦準備を進めると表明したことだ。
マツダが使用した「100%バイオ由来の次世代バイオディーゼル燃料」は、バイオベンチャーのユーグレナが供給する「再生可能燃料」で、使用済み食用油や微細藻類油脂から製造するため、トウモロコシなどを原料とする従来のバイオディーゼル燃料と比べて「食料競合のような問題がない」という。
さらにマツダは「既存の車両・設備をそのまま活用できるため、燃料供給に関連する追加インフラを必要としない」と説明する。
今回、マツダはデミオベースのディーゼルエンジン車でレースに参戦したが、「エンジン自体を変更することなく、十分な性能を発揮することができた」という。
トヨタとスバルは、マツダの次世代バイオディーゼル燃料とは別に「バイオマスを由来とした合成燃料」を使用して、2022年の「スーパー耐久レース」にトヨタは「GR86」、スバルは「BRZ」で参戦すると発表した。
さらにヤマハ発動機と川崎重工はバイクに搭載する水素エンジンの共同研究について検討を開始したと表明。今後はホンダとスズキも加わり、バイクの水素エンジンの実現可能性を探るという。
日本の大手バイクメーカー4社が水素エンジンの技術開発で手を組むのは画期的だ。とりわけ電動化を進めにくい大型バイクの生き残りにかけたメーカーの本気度が伝わってくる。
マツダの「100%バイオ由来の次世代バイオディーゼル燃料」、トヨタ・スバルの「バイオマスを由来とした合成燃料」、バイクの水素エンジンのいずれも、技術的には可能だが、大量生産やコストダウンが課題となっている。
だからこそ、まずモータースポーツの現場で実装可能であることをアピールし、社会認知度を上げることが必要なのだろう。
今回、トヨタは福岡市が下水処理から世界で初めて水素を取り出すことに成功し、今後の水素エンジン車のレースで活用すると発表した。福岡市の下水処理から生まれる水素は、トヨタの燃料電池車「ミライ」に換算し、1日当たり約60台分に相当するという。
現状で水素の生産能力は限られるが、この水素製造技術が全国の下水処理場に広がれば、水素エンジン車や燃料電池車に供給する水素の供給確保とコストダウンにつながるのではないか。楽観はできないが、5社の発表会見を聞いて、そんな近未来を展望した。