SUBARU(スバル)が米国のベル・ヘリコプター・テキストロン社と共同開発した新型ヘリコプター「SUBARU BELL 412EPX」を警察庁へ納入したと5月20日に発表した。同機の納入は、今回が第1号。
ヘリの制御技術は、将来的に「空飛ぶクルマ」への応用の期待もある。
スバルにとって、民間ヘリコプターの開発・生産は1995年以来という。初号機はスバルの宇都宮製作所で操縦と整備の訓練を行い、岩手県警で活躍する予定だ。
スバルとベル社は1960年代からヘリコプターの共同開発やライセンス生産を行うなど、長く協力関係にある。
スバルは2015年、陸上自衛隊の多用途ヘリ「UH-1J」の後継機となる新多用途ヘリ(UH-X、後のUH-2)の開発を防衛省から請け負った。これを受け、スバルとベル社は民間向けの最新ヘリ412EPXを共同開発。この機体を共通プラットフォームとして、陸自の新多用途ヘリを開発した。
412EPXは「世界でベストセラーとなった従来の412型機の後継で、多用途性や信頼性に対する高い評価を維持しながら、さらに能力を向上させた機体」(スバル関係者)という。412EPXはカナダで試作機が飛行試験を重ね、18年7月に米国連邦航空局から量産に必要な型式証明を取得。19年1月には、国土交通省からも承認を受けた。
日本ではスバルのほか、三菱重工業と川崎重工業がヘリを生産しているが、いずれも外国メーカーとの共同開発で、防衛省向けの納入が中心だ。
世界のヘリコプター市場の売上高ランキング(19年)は、1位のエアバス・ヘリコプターズ、2位のレオナルド・ヘリコプターズの両欧州勢にに続き、米国のベル・ヘリコプターが3位だ。この上位3社が市場全体の約3割を占める。コロナ禍の影響で先行きは不透明だが、民間ヘリ市場の成長は今後も期待できるという。
日本メーカーが世界のヘリ市場に占めるシェアは決して大きくないが、スバルはベル社と協力し、世界で150機以上の412EPXの販売を目指すという。
412EPXの運動性能はどうなのか。スバルは「日本の複雑で狭隘な地形でも人命救助を可能とする。離島防衛や災害救助にも活躍が期待される」とコメントしている。スバル車にも共通する運動性能の高さから、「過酷な運航条件の下でも高い信頼性を誇り、警察・消防・防災用途を中心に世界各国での展開を見込んでいる」という。
スバルの前身は、戦前の名門航空機メーカー「中島飛行機」だ。第2次世界大戦中は「隼」や「ゼロ戦」などの戦闘機を手掛け、戦後は自動車メーカーに転身した。
1960年代後半から70年代にかけては単発プロペラ軽飛行機「富士FA200」(エアロスバル)や双発プロペラビジネス機「富士ロックウェルFA300」など高性能な民間機を開発・販売した。しかし、いずれもビジネスとしては大成しなかった。
現在のスバルの航空機事業は、ボーイング787の中央翼の生産などが中心だ。それに加え、小規模ながらも民間向けにヘリコプターを共同開発・生産する意義は大きい。
自衛隊機はもちろんのこと、自治体の防災ヘリなどはメインテナンスが重要だ。製造メーカーが国内にあることは、部品供給や整備体制の面でユーザー側にもメリットは大きい。
さらにスバルがヘリの制御技術を維持することは、将来的に大型ドローンによる「空飛ぶクルマ」を開発するうえでも有利となるに違いない。これはスバルの筆頭株主のトヨタ自動車にとっても、グループ内の重要な経営資源になることだろう。
日本の自動車メーカーでヘリを開発・生産するのは、航空・宇宙部門を抱えるスバルだけだ。「空飛ぶクルマ」の開発で、スバルを抱えるトヨタ陣営の動きに注目したい。