環境保護団体グリーンピースが世界の主要自動車メーカー10社の気候変動対策(脱炭素化)のランキングを発表し、トヨタ自動車が2年連続で最下位となった。
日本勢は日産自動車が8位、ホンダが9位で、3社がワースト3を〝独占〟した。
グリーンピースは排気ガスを出さない電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)を「排ガスゼロ車」(ゼロエミッションビークル=ZEV)と定義している。
水素ステーションの設備がネックとなり、FCVが普及しない現状ではZEVの大半はEVとなる。グリーンピースは世界販売に占めるZEVの割合やエンジン車の生産中止計画、サプライチェーンの再生可能エネルギーの導入目標、調達する鉄鋼の脱炭素化などを点数化して採点した。
その結果、トップは米ゼネラル・モーターズ(GM)で、2~7位はメルセデス・ベンツ、フォルクス・ワーゲン(VW)、フォード、現代・起亜、ルノー、ステランティスの順だった。
首位のGMの総合得点は38.5点。2021年のZEVの世界販売台数が50万台を超え、自社の世界販売の8.18%を占め、10社の中で最も多かったことなどが評価された。
最下位となったトヨタの総合得点は10.0点。2021年のZEVの世界販売台数は1万7462台で、ZEVが占める割合がわずか0.18%だったことが響いた。
グリーンピースは「10社の実績は全体として3つのグループに分けられる。GM、メルセデス・ベンツ、VWは比較的良好な位置につけている。フォード、現代・起亜、ルノー、ステランティスはいずれも平均的な成績だが、日産、ホンダ、トヨタはいずれも最低ランクに位置する」と、日本メーカーを酷評した。
グリーンピースはトヨタについて「世界初の量産ハイブリッド車であるプリウスのメーカーとして、トヨタは多年にわたり、環境に配慮した車のパイオニアであった。しかし、近年、自動車業界の全体的トレンドがゼロエミッション(排ガスゼロ)への移行に向かう中、トヨタはハイブリッド重視という姿勢を変えていない」と批判している。
日本メーカー3社はグリーンピースのランキングについて、いずれもメディアの取材にコメントしていない。もちろん反論はあるだろうが、株価を気にしているのか、正面からの反論を避けているように見える。
恐らくトヨタはEVが唯一の脱炭素化の選択肢ではないと言いたいのだろう。
クルマの場合、燃料の採掘・精製からクルマの製造・走行・廃棄・リサイクルまで「ウェル・トゥ・ホイール」と呼ばれるライフサイクル全体で二酸化炭素(CO2)の排出量を測る考え方がある。
当然のことながら、EVは火力発電の電力で走ればCO2の排出が多くなり、再生可能エネルギーで走れば排出量はゼロになる。
さらにEVのリチウムイオン電池は電極の乾燥工程など製造過程で大量のエネルギーを消費するため、CO2の排出量が多くなる傾向にある。
この結果、大容量のリチウムイオン電池を積んだEVは必ずしも脱炭素に貢献しているとは限らない。
経年劣化が避けられないリチウムイオン電池を将来的に交換すれば、EVといえどもさらに環境に負荷をかけることになる。このためトヨタはEVだけでなく、FCVを量産。さらに水素や「eフューエル」などの次世代燃料で内燃機関(エンジン)車を走らせることを研究している。
トヨタの豊田章男社長は「未来を予測することよりも、変化にすぐ対応できることが大切。正解への道筋がはっきりするまで、消費者の選択肢を残し続けたい」と、当面は全方位戦略を維持する考えを示している。
FCVの量産はホンダが撤退したが、世界的にはメルセデス・ベンツや現代自動車などが開発と量産を続ける。VWなどもeフューエルの研究開発を続けており、将来的に内燃機関が生き残る可能性もある。現状でEVは脱炭素化の有力な手段だが、将来的にEVが100%となるかどうかは、まだわからない。
グリーンピースは有力自動車メーカーに2030年までに主要市場でエンジン車の販売終了を求めている。しかし、EVが大半を占めるZEVの世界販売台数は2020年の205万台から2021年に459万台に増えたものの、自動車販売台数に占める割合は2.66%から5.72%に上昇したに過ぎない。上昇したのは、世界各国がEV補助金で政策誘導を図ったからだろう。
EVの普及が進まないのは、充電時間の長さと航続距離の短さ、電池の劣化など、克服すべき課題があるからだ。グリーンピースの研究者やスタッフには、ぜひEVで長距離を移動してみることをお勧めしたい。ガソリン車と比べ、航続距離の短さと充電時間の長さに閉口するに違いない。
とりわけ高速道路を長時間走行し、リチウムイオン電池が熱くなった状態で急速充電しても、満足に充電できない。30分の急速充電で100キロ程度しか走行距離が回復せず、100キロ走行するごとに充電しなくてはならないのが、現在のEVの平均的な実力だ。
EVは脱炭素に貢献できたとしても、利便性に課題は多い。このレベルでは、自動車メーカーは自信をもってEVを勧められず、購入したユーザーから不満が出ても不思議はない。
グリーンピースが目指す理想は崇高だが、現状のEVは万能でなく、一気に普及するとは考えにくい。