バイクのカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)をめぐる動きが注目されている。国内の二輪車メーカーでヤマハ発動機に続き、川崎重工業が2021年10月6日、「2035年までに先進国向け主要機種の電動化を進める」と発表した。大型バイクが主流のカワサキで、果たして本当に電動化が実現できるのだろうか。
国内の二輪車メーカーではヤマハが2021年7月、世界の新車販売に占める電動車の割合を2035年に20%、2050年に90%にする目標を打ち出した。川崎重工は販売比率など具体的な数値目標を示さなかったものの、国内メーカーではヤマハに続く動きといえる。ホンダ、スズキも電動化を進める方針だが、今のところ具体的な数値目標などを明らかにしていない。
川崎重工の橋本康彦社長は10月6日のオンライン記者会見で「脱炭素化に向けた環境対応など顧客や社会ニーズに適応した製品の提供で、川崎ブランドをさらに強化していく。成長投資と脱炭素化がドライビングフォースになると考えている」と語った。
川崎重工は10月から二輪車事業を「カワサキモータース」として分社化し、開発・販売体制を強化した。
新会社として発足したカワサキモータースの伊藤浩社長は「カーボンニュートラルは当社のみならず業界を通じた大きな課題だが、当社は川崎重工グループとパートナー企業の複合技術を活用し、実現を目指す」と述べた。
具体的には「2035年までに先進国向け主要機種の電動化を完成させ、2025年までに10種類以上のバッテリーEVやハイブリッドEVを登場させる」という。
カワサキは国内の大手二輪メーカー4社の中で唯一、原付バイクやスクーターなどを持たず、中・大型バイクを主力としている。
走行距離が短い原付バイクや小型のスクーターであれば、容量の少ないバッテリーを積み、電動バイクとするのは簡単だ。
事実、ヤマハなどが目指す電動化は主に排気量125cc以下の小型バイクだ。ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキの4社は2021年3月、小型電動バイクのバッテリー規格を統一し、相互に交換できるシステムとすることで合意した。
国内メーカー4社は小型電動バイクのバッテリーを脱着型とすることで、充電不足となった場合は町中のコンビニなどで満充電のバッテリーと交換することなどを想定している。
しかし、長距離のツーリングなどを楽しむ中大型のスポーツバイクは容量の大きなバッテリーを積まざるをえず、なかなか脱着式とはいかない。
このためカワサキが念頭に置くのは、バッテリーだけの電動バイクではなく、エンジンとモーターを組み合わせたハイブリッド(HV)バイクのようだ。
カワサキのHVバイクは、(1)エンジンのみ(2)モーターのみ(3)エンジンとモーターの併用――の3パターンがあり、「高速道路ではエンジンのみで走行。市街地では電動のみで走行し、ワインディングロードではエンジンとモーターを組み合わせたパワフルなハイブリッドモードを楽しめる」(伊藤社長)という。高速道路でエンジンのみというのは、その方がエネルギー効率が高いからだ。
このようにバイクの電動化は、中型以上のバイクでは困難が伴うのだ。この現実はヤマハも認めている。
ヤマハ発動機の日高祥博社長は日本経済新聞(2021年9月15日)のインタビューで「当社は年間500万台程度を販売しているが、中大型中心のスポーツバイクは十数万台で、125ccや155cc帯のスクーターが主力だ。電動化はまず、ここに集中する」と述べている。
趣味性が強いスポーツバイクは航続距離だけでなく、エンジン音や鼓動感なども重要な要素となる。このため日高社長は「スポーツバイクについても研究開発を進めているが、十分な量の電池を積むとかなり重い。曲がるときの軽快感がなかなか出ない。エンジン車とは似て非なる乗り物となり、ターゲット層も変わらざるを得ないだろう」と答えている。
この悩みはスクーターなどを持たず、中大型車が中心のカワサキこそ深刻だ。
10月6日の会見で、カワサキモータースの伊藤社長は「当社が得意とする大型モーターサイクルをバッテリーEVで実現するには重量がかさむことが大きな課題となる」と認め、電動化に加え、水素エンジンの研究も進めていく考えを示した。
伊藤社長は「水素エンジンは重量面でガソリンエンジンと大きく変わることなく、大型モーターサイクルのカーボンニュートラルの実現には非常に有効な手段と考えている。当社のフラッグシップモデルであるH2のエンジンを活用した研究を川崎重工技術開発本部と継続していく」と説明した。水素から作るeフューエルやバイオ燃料の研究・開発も進めるという。
ヤマハに続く今回のカワサキの発表で、小型バイクはバッテリー脱着のEVとなっても、中大型のバイクは当面ハイブリッド、将来的には水素エンジンや次世代燃料となる可能性が高いことがわかった。
ただし、現状の水素エンジンは航続距離が短く、eフューエルも水素の調達をどうするかなど、技術開発とコストの両面で克服すべき課題が多い。クルマ同様バイクでも、カーボンニュートラルを実現するのは容易ではない。