日産自動車が2021年11月29日、2030年に向けた「長期ビジョン」を発表した。大手メディアは「日産、EVに5年で2兆円」(日本経済新聞11月29日朝刊)など投資額の大きさや、「世界販売 30年度5割電動車」(同)など、電動化の目標比率をクローズアップした。
しかし、注目すべきは、日産が発表した3台のコンセプトカー(試作車)だろう。自主開発の全固体電池と前後モーターを組み合わせ、「スケートボードのような形状」(日産)をした構造だ。
このシャシーとバッテリー、モーターを組み合わせ、日産はスポーツカー「Max-Out(マックスアウト)」、ピックアップトラック「Surf-Out(サーフアウト)」、小型SUV「Hang-Out(ハングアウト)」の3台のコンセプトカーを発表した。
いずれも「超軽量、超低重心、進化した電動4輪駆動」で、なかなか魅力的だ。このうち、「超軽量、超低重心」の鍵を握るのは、次世代電池と目される全固体電池というのがポイントだ。現行のリチウムイオン電池では、ここまで電池を薄く、軽量化できないだろう。
日産が示したこのEVの骨格は、まさにスケートボードのような形で、低重心と軽量化による運動性の高さを予感させる。
日産のこれら3台は、あくまでコンセプトカーなので、このままの形で市場に出るとは考えにくいが、これらの3台が姿を変えながらも2030年までに登場するのは間違いない。
日産は今回の長期ビジョンで、全固体電池を自社開発し、2024年から試作を始め、2028年の市場投入を目指すとことを打ち出した。
現在EVで主流のリチウムイオン電池が電解質に液体を使用するのに対し、全固体電池は文字通り固体の物質を使用する。リチウムイオン電池に比べ、急速充電が可能で、劣化しにくく、液漏れが起こらないため安全性も高いとされる。
さらに低温や高温でも電池の性能が低下せず、理想の電池とされるが、電解液と同等以上の伝導性をもつ材料の開発など、解決すべき課題が多く、企業や大学が研究開発を急いでいる。
全固体電池はトヨタ自動車、ホンダ、メルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲン、ステランティス、現代自動車など世界の大手自動車メーカーや大手電池メーカー、スタートアップの電池メーカーなどが実用化に向け、しのぎを削っている。
大半のメーカーは2020年代後半の実用化を目指しているが、果たしてどのメーカーが一番乗りを果たし、主導権を握るのか。トヨタは2020年代前半に全固体電池の実用化を目指すと表明しているが、当初はEVではなく、ハイブリッドカー(HV)への搭載を予定している。
その中で日産の2028年量産開始という目標は、決して早いとはいえない。しかし、日産の内田誠社長兼最高経営責任者(CEO)は今回の長期ビジョン発表会見で「私たちが今、全固体電池の自社開発を、自信をもって発表できるのは、この30年間の経験と、初代日産リーフ発売から11年間、市場に安全な電池を送り出してきた実績があるからだ」と自信を見せた。
「30年間の経験」とは、日産が約30年前に車載用リチウムイオン電池の自社開発に着手し、基礎研究を積み重ねた結果、内製による量産化に成功したことを指している。
果たして日産が思い描く通り、全固体電池の自社開発は進むのか。日産が長期ビジョンを発表した翌日の11月30日には、メルセデス・ベンツとステランティスがそれぞれ米国のスタートアップ電池メーカーと全固体電池の開発で提携すると発表した。
「実用化まであと数年」とされる全固体電池の開発はどこまで進むのか。今後、日産はじめ国内外の大手メーカーの開発競争が激化するのは間違いない。