「ハイブリッド車が普及している日本では、まず2024年前半に商用の軽EV(電気自動車)を投入し、配送業など稼働率の高いプロフェッショナルユースの領域からEVの普及に取り組んでいきます。この商用EVを100万円台で提供することを目指します」
ホンダが2022年4月12日に発表した「2030年までにグローバルで30機種のEVを展開し、年間200万台を生産する」という電動化の計画に失望したホンダファンは多かったのではないか。
四輪車の電動化について、ホンダの青山真二執行役専務は同日の記者会見で、冒頭に掲げたように商用軽EVを日本でのEV化の切り札に挙げた。
「商用軽EV」とは宅配など配送業に使う近距離移動のバンを指す。そんな商用EVをめぐっては、佐川急便がベンチャー企業と小型配送用のEVを共同開発し、30年までに約7200台の軽商用車をEV化する計画だ。車両は中国で生産するとみられている。同じく物流大手のSBSホールディングスも21年10月、中国の小型EVトラックを1万台調達すると発表している。
つまり、ホンダが目指す「商用軽EV」のライバルは、目下のところ中国の格安EVなのだ。そんな格安EVと「100万円台」などと価格競争したところで、ホンダらしい先進性や付加価値が生まれるだろうか。
ホンダはこの「商用軽EV」に続き、「再生可能エネルギーの普及状況も見ながら、パーソナル向け軽EV、SUVタイプのEVも適時投入していきます」(青山氏)という。「適時投入」と言われても、いつになるかわからない。かつてのホンダなら、商用車よりも乗用車を優先していたことだろう。
世界の自動車メーカーが開発を進める全固体電池についても、ホンダから新たな発表があった。
「現在の進捗ですが、ラボレベルで技術、生産の検証を行い、目標とする性能を定めました。2024年に実証ラインを立ち上げ、2020年代後半のモデルに採用できるよう研究を加速させています。量産はホンダにとってもチャレンジングであり、今後、専門人材の獲得を強化するなど、体制の強化を図っていきます」(青山氏)
正直といえば正直だが、ホンダは全固体電池について研究段階であり、量産は困難で、これから専門の人材を獲得すると認めている。
トヨタは20年8月から全固体電池を搭載した試作車でデータを取得し、20年代前半にハイブリッドカー(HV)に採用すると表明している。トヨタはHVに全固体電池を搭載した後、EVにも採用する方針だ。
日産自動車はトヨタ同様、全固体電池の自社開発を既に進めており、24年にパイロット生産ラインを導入し、2028年の量産を目指している。航続距離が現行リチウムイオン電池の2倍、充電時間が3分の1になるという。
海外では独フォルクスワーゲン(VW)や独BMW、米フォード・モーターなども新興電池メーカーと組んで全固体電池の開発を進めている。
これら世界の先頭集団に比べ、ホンダの開発は遅れていると言わざるを得ないだろう。
このままでは、先進性や「走り」を愛するホンダファンが失望するのは否めない。当然それを見越してか、三部敏宏社長は会見の終盤でこう述べた。
「ホンダ不変のスポーツマインドや際立つ個性を体現するようなスペシャルティーとフラッグシップ、二つのスポーツモデルの投入を検討しています。皆さまの期待に応えられるようこだわって開発していきたいと思います」
果たして三部社長の公約は実現できるのか。今回のホンダの電動化計画の発表は、残念ながらホンダの全固体電池はじめ、電動化計画がライバルに比べて遅れていることを印象付けた。