トヨタ自動車は2021年8月2日、本格的なオフロード4WDの新型「ランドクルーザー」を発売した。ランドクルーザー(愛称ランクル)は1951年8月、「トヨタBJ型」として初代が誕生した。発売70年の節目に当たり、約14年ぶりに登場した新型は13代目となる。新型は先代に比べ、どこが変わったのだろうか。
ランクルはトヨタが初代以来、「どこへでも行き、生きて帰ってこられるクルマ」として、「信頼性・耐久性・悪路走破性」を最優先に開発・生産してきたヘビーデューティーカーだ。
これまでにトヨタは中東、アフリカ、アジアの途上国はじめ世界約170カ国・地域で、年間約30万台以上、累計約1060万台のランクルを販売してきた。
熱帯の砂漠地帯やジャングルから急斜面の山岳地帯、極寒のツンドラまで、気候や地形を問わず「道なき道」を走ることができるオフロード4WDで、このジャンルはクロスカントリー4WDとも呼ばれる。
ランクルは「国境なき医師団」はじめ、国際的な人道支援や災害派遣の現場でも活躍している。
まさに、「国際貢献」や「途上国支援」という言葉が、ランクルほどぴったりな日本車も珍しい。このためトヨタは今回の新型についても「世界各地で人の命や暮らしを支える存在として、世界中のお客様の使用実態に基づいて鍛え、進化させた」と説明している。
サバイバル機能を最優先するランクルは、もともと保守的なクルマだ。新型は2007年に登場した先代のフルモデルチェンジとなるが、全長、ホイールベースなどのサイズは旧型と同じ。悪路走破性を重視し、32度のアプローチアングル、26度のデパーチャーアングルなどの基本設計も変更しなかった。
この数字はバンパーとタイヤをつないだ線が地面となす角度のことで、その角度の急坂へフロント(またはリア)から進入してもバンパーが路面と干渉しないことを意味している。ボディーは耐久性を重視して従来通りフレーム構造だが、伝統のラダーフレーム(はしご状の鉄の車台)を刷新したのはニュースだ。「最新の溶接技術の活用により、従来型比20%アップの高剛性と軽量化を実現させた」という。
クロスカントリー4WDの最大のライバルとなる英ランドローバーすら、近年はフレームボディーから乗用車と同様のモノコックボディーに移行する中、トヨタがランクルでフレームボディーを維持するのは走破性や耐久性を重視してのことだ。
フレームを維持しながらも、ボディー全体はボンネット、ルーフ、全ドアパネルをアルミとするなど軽量化を図り、車両全体で約200キロも軽くなった。
さらにエンジンなどパワートレーンの搭載位置を車両後方に70ミリ、下方に28ミリ移動させ、低重心化を図るとともに前後重量配分の見直しを行ったという。
フレームの高剛性化を図りながら、軽量化と低重心化も実現したのは特筆に値する。実質200キロの軽量化は、3.3リットルディーゼルエンジンで車両重量が2560キロもあるランクルにとって、操縦性や燃費などあらゆる面で恩恵が大きい。
トヨタによると、新型ランクルは発売前から受注が殺到し、「8月2日以降に注文いただいた場合の納期は1年以上となる見込み」だという。これは予想通りの反応だ。
スズキが新型ジムニーを発売した直後も同様に注文が殺到し、生産が追い付かなかった。この手の本格的なクロカン4WDは、もはや車種が限られ、モデルチェンジまでの年数が長いため、久しぶりに新型が登場すると、買い換え需要が殺到するのだろう。
他方、トヨタは今回の新型の発表と合わせ、歴代ランクルの中でもロングセラーとなった「ランドクルーザー40系」の補給部品を復刻することも発表した。
40系は1960年から84年まで生産したベストセラーモデルで、現在も世界中で現役として活躍している。
トヨタは「世界各地のランクル専門ショップやファンクラブ代表の声」を聞き取り、エンジン、駆動系、排気系など廃版となった重要機能部品を復刻し、2022年初頭をめどに発売するという。
ランクルの部品復刻は、トヨタの「GRヘリテージパーツプロジェクト」の一環だ。これまでスープラ(A70、A80)と2000GTの部品を復刻してきた。ランクルについては「今回の40系をはじめ、それ以降の車両のパーツについても供給の検討を進めていく」という。
これは歴代ランクルのオーナーから「補給部品の欠品で、今のランクルに乗れなくなってしまうかもしれない」という不安の声を受け、対策に乗り出したのだという。ランクル誕生70周年に当たる2021年にふさわしい発表だ。
8月1日には「ランドクルーザー誕生70周年記念オンラインファンイベント」も開かれた。トヨタのランクルに対する姿勢は評価すべきで、大メーカーらしい懐の深さを感じる。