SURARU(スバル)が旗艦の4ドアスポーツセダン「スバルWRX」の5代目となる新型を北米で初公開した。果たして5代目WRXはどんな風に進化したのだろうか。
今回、北米で初公開したWRXは日本でいう「WRX S4」だ。これまで日本仕様のスバルWRXには大きく2種類あり、CVT(無段変速機)の「WRX S4」と6速マニュアルの「WRX-STI」が存在した。エンジンもS4がFA20型水平対向4気筒ターボなのに対し、WRX-STIは伝統と実績のEJ20型ターボで、S4が街乗り重視の万人向けとすれば、WRX-STIはさらにスポーツ指向が強く、玄人向けだった。
しかし、名機EJ20型エンジンを積むWRX-STIはスバルが米国の「企業別平均燃費基準(CAFE)」をクリアするため、生産終了になった。誕生から30年以上を経過したEJ20型は燃費改善に限界があったからだ。
従って、今回北米で発表したWRXは日本でいうS4だけなので、本格派のWRX-STIが今後どうなるのかは、まだわからない。しかし、次期WRX-STIを占う意味で、5代目の北米仕様(S4)は注目に値する。
そもそもスバルWRXの魅力とは何か。WRXは1992年にデビューした「スバルインプレッサWRX」がルーツだ。初代WRXは兄貴分の「スバルレガシィRS」より一回り小さなボディにレガシィを上回るパワーとトルクのEJ20型エンジンを乗せ、パフォーマンスを飛躍的に高めた。
初代から3代目までWRXは世界ラリー選手権(WRC)で活躍し、1995年から97年までスバルに日本メーカー初の3年連続世界チャンピオンをもたらした。「極東の小規模メーカー」だったスバルの名声を飛躍的に高め、欧米を中心に「スバルファン」と「WRXファン」を増やした。
スバルは4代目からWRXをインプレッサから独立させ、単独のネーミングとすることでブランド力の向上を狙った。日産が「スカイラインGT-R」を「日産GT-R」にしたのと同じだ。
インプレッサからWRXを独立させたのは、4代目以降のWRXがスポーツワゴンの「スバルレヴォーグ」と基本設計が同じになった影響もある。従って、レヴォーグがモデルチェンジすると、追ってWRXもモデルチェンジすることになった。今回も新型レヴォーグを追いかけるように、新型WRXが登場した。
北米仕様のWRXは2.4リッターの水平対向ターボエンジンで、最高出力は275馬力、最大トルクは350Nmとなった。トランスミッションは日本のS4とは異なり、6速マニュアルと、新たに「スバルパフォーマンストランスミッション」と呼ぶCVTの二つがある。
現行4代目のS4は2.0リッターで最高出力300馬力、最大トルク400Nmだ。日米で仕様に差があるとはいえ、現行の日本仕様に比べると、北米仕様の新型のパフォーマンスの低下は明らかだ。
ただし、新型WRXを飽くまで北米仕様のS4と考えれば、仕方がないことかもしれない。米国の環境規制が厳しくなる中、WRXのようなガソリンエンジンのスポーツカーの新モデルが登場するだけでも、ファンにとってはありがたいことなのだ。
とは言うものの、「スービー」と呼ばれる米国の熱烈なスバルファンが今回のパフォーマンスをどう評価するか気になるところだ。
問題は次期WRX-STIの存在だ。スバルは2021年にWRX(日本のS4)を発表し、22年にWRX-STIを発表する戦略のようだ。北米仕様のWRX(日本のS4)のパフォーマンスを敢えて抑え、企業別平均燃費基準(CAFE)を向上させた分、本命のWRX-STIで本来のパフォーマンスを維持できるか注目される。
北米仕様の新型WRXは控えめなパフォーマンスだけでなく、スタイリングでも気になる点がある。
スバルは「スポーツサイドガーニッシュ」と呼んでいるが、ホイールアーチがSUV風に黒く縁どられたことだ。スバルは「XV」や「フォレスター」などでホイールアーチを黒く縁取っているが、これはSUVを力強く見せる手法だ。しかし、スポーツセダンにとっては腰高に見えてしまう。
控えめなパフォーマンスとSUV的なスタイリング。果たして新型WRXは北米ユーザーの心をとらえるのか、肝心の日本仕様はどうなるのか、今後に注目したい。