トヨタ自動車が中国の電気自動車(EV)大手「比亜迪(BYD)」と新型EVを共同開発し、トヨタの本格EVの第二弾「bZ3」として中国で発売することになった。トヨタが中国のBYDと新型EVを共同開発する狙いはどこにあるのだろうか。
トヨタは2019年11月、BYDと「電気自動車の研究開発」に関する合弁会社設立の契約を締結。20年5月に新会社「BYD TOYOTA EV TECHNOLOGYカンパニー」を立ち上げ、BYDが得意とする電池に限らず、EV全般の共同開発を進めてきた。bZ3はその成果となる。
BYDは22年7月、日本で23年1月にミドルサイズのSUV「ATTO3(アットスリー)」を発売すると発表し、日本でも注目度が高まっている。BYDは1995年、電池メーカーとして創業。03年に国営の自動車メーカーを買収して自動車産業に進出し、22年上半期の世界のEV販売台数で米テスラに次ぎ、世界2位となったメーカーだ。
トヨタがそんなBYDと組むメリットはどこにあるのか。それはBYDが持つ「リン酸鉄リチウムイオン電池」にあるのだろう。リン酸鉄リチウムイオン電池は、日産自動車やテスラなどが採用する「ニッケル・マンガン・コバルト3元系リチウムイオン電池」に比べ、発火の危険性が低く、寿命が長いメリットがあるという。コスト面でも優位性があり、多くの中国メーカーが採用する要因とされる。
全方位で脱炭素化を目指すトヨタにとって、BYDのリン酸鉄リチウムイオン電池の採用は、EV戦略でまた一つトヨタの選択肢の幅を広げたことになる。トヨタは2021年発表の本格EVの第一弾「bZ4X」ではパナソニック系や中国CATLのリチウムイオン電池を採用している。これらは、いずれも3元系リチウムイオン電池とみられる。
CATLはリン酸鉄リチウムイオン電池も生産しているが、近年は3元系にシフトしている。ただし、リン酸鉄と3元系はコストを含め、現時点では優劣がつきにくいようだ。トヨタがBYDと組む理由もこの点にあるのだろう。
トヨタは今回、BYDのリン酸鉄リチウムイオン電池をベースに「トヨタが長年ハイブリッド車(HV)開発を通じて蓄積してきた電動化技術と経験を融合し、電池構造、冷却システム、制御システムと安全監視システムを新たに設計、高品質、高効率、先進的でかつ安心・安全な電動システムとした」とコメントしている。
bZ3の電池容量などは明らかになっていないが、トヨタは「最長航続距離が600キロを超えている」と発表している。気になる電池の劣化については「トヨタの電動化技術によって、10年後でも90%の電池容量を維持することを開発目標に電池劣化抑制に努めた」という。
「10年後でも90%維持」はトヨタが「世界最高水準」とするレベルで、bZ4X以降のトヨタのスタンダードとなっている。
トヨタはbZ3を日本国内で発売するかどうか明らかにしていない。トヨタの本格EVシリーズの第一弾bZ4Xが中型SUVであるのに対して、第二弾のbZ3は中型セダンで、棲み分けが可能だ。bZ3はトヨタの中国の合弁会社「一汽トヨタ自動車」で生産するという。中国生産のbZ3が日本に輸入され、販売されたとしてもおかしくない。
一方、BYDは23年1月のミドルサイズのSUV、アットスリーに続き、23年中頃にコンパクトカー「DOLPHIN(ドルフィン)」、同年下半期に高級セダン「SEAL(シール)」を発売する予定だ。アットスリーはbZ4X、シールはbZ3のライバルとなるだろう。
中国の自動車メーカーが日本でEVはもちろんのこと、乗用車を本格的に発売するのはBYDが初めてとなる。BYDが日本に上陸する23年にbZ3が日本でも発売されるなら、トヨタは共同開発先のBYDと日本でも真っ向勝負となる。BYDが日本でどの程度販売できるかは未知数だが、BYD単独の電池と、トヨタと共同開発の電池の間に性能差はあるのか注目される。