日産自動車とルノー、三菱自動車工業の日仏3社連合は2022年1月27日、2030年に向けた長期戦略「アライアンス2030」を発表した。その中で、日産が欧州で発売する「マイクラ」(日本名マーチ)の後継車を電気自動車(EV)に一本化すると発表した。
このニュースを感慨深く聞いた読者は多かったのではないか。日産が日本で発売する次期マーチも恐らく次期マイクラと同様のEVとなるだろう。この判断が吉と出るのか凶と出るのか、現時点ではわからない。
次期マイクラは2024年に3社連合が投入する「コンパクトEV専用」のプラットフォーム(車台)を使用し、最大400キロの航続距離を実現するという。ルノーが欧州で発売している小型EV「ゾエ」に比べて「コストを33%低減し、消費電力は10%以上改善する」という具体的な目標も示された。
3社連合は同日、「2030年までに五つのEV専用プラットフォームをベースにした35車種の新型EVを投入する」と発表しており、次期マイクラのプラットフォームはこのうちの一つだ。
日産のアシュワニ・グプタ代表執行役最高執行責任者は同日のオンライン記者会見で「欧州で最も競争が激しいセグメントにEVを出すには、性能と価格の両面で競争力が必要だ。次期マイクラのプラットフォームは競争力が非常に高い。ガソリン車からの移行をスムーズに行い、日産の競争力を示したい」と力を込めた。
果たして本当にガソリン車からEVへスムーズに移行できるのか。このコンパクトEV専用のプラットフォームは次期マイクラのほか、ルノーやアルピーヌブランドの新型EVにも利用するという。コストダウンが狙いだからだろう。
このうちの一つは、ルノーの往年の名車「R5(ルノー・サンク=ルノー5)」で、次期ルノー5は次期マイクラとEV専用の姉妹車となるようだ。
初代が1972年に登場したルノー5は欧州を代表するコンパクトハッチバックで、現在のルノー「クリオ(日本名ルーテシア)」につながる人気モデルだ。このクラスは欧州ではフォルクスワーゲン、トヨタ、ステランティス、ホンダなどが参入する激戦区となっている。
日産とルノーは欧州向け次期マイクラと次期サンクのプラットフォームを共通化し、デザインは両社がそれぞれ行い、開発と生産はルノーが行うという。
これはトヨタ自動車とSUBARU(スバル)が共同開発し、2022年の年央に発売するEV「トヨタbZ4X」と「スバルソルテラ」と同じ手法だ。両車は共同開発といっても、事実上トヨタ主導で、生産もトヨタが行う。
日産とルノーも共同開発の姉妹車というと聞こえはよいが、デザインが少し異なるだけで、中身は同じ「金太郎あめ」的なクルマになりはしないか。日産とルノーの場合、果たしてどちらが主導権を握るのか。開発と生産をルノーが行う以上、ルノー主導となるのではないか。
航続距離400キロを達成しながら、欧州市場でライバルと価格競争で戦えるのかも注目ポイントだ。400キロの航続距離を達成するには、現在のリチウムイオン電池なら60kWh(キロワット時)前後の容量を積まなくてはならない。
ホンダとマツダは欧州と日本市場でEVの車両価格を抑えるため、35.5kWhとコンパクトな電池を積んだ結果、航続距離は200キロ台後半となっている。この航続距離で、価格は400万円台半ばと高価なため、両社初のEV「ホンダe」と「マツダCX-30EV」は日欧で思うように売れていない。
日産にとって日本国内のマーチは、2010年登場の現行4代目がタイからの輸入になって以来、鳴かず飛ばずで、10年以上もフルモデルチェンジできない状態が続く。もはやトヨタヤリスやホンダフィットのライバルとはなりえない。
そのマーチが2024年以降、欧州のマイクラに倣い、日本でもEVとして登場した場合、国内の評価はどうなるのか。400キロの航続距離は合格点として、問題は車両価格と充電時間、さらには充電スタンドなど社会インフラを含めたEVの使いやすさが問われるだろう。
その前にEV専用車として先行する次期マイクラや次期ルノー5が欧州市場でどう評価されるのか。日本市場への投入は、その結果次第ということになるだろう。