ダイハツ工業が国内で販売する軽と小型車を2030年までにすべてハイブリッド車(HV)と電気自動車(EV)にすると発表した。果たして、ユーザーはこの電動化戦略をどう受け止めるべきなのか。
ダイハツはこれまで軽のHVは「構造が複雑で重量が重くなり、コストアップにつながるなど軽には不向き」として、採用を見送り、「第三のエコカー」と称して「ミラ・イース」のような高効率ガソリンエンジンの低燃費車に注力してきた。
そんなダイハツも、世界で進む電動化の波に乗り遅れることはできないと判断したのだろう。
奥平総一郎社長が2021年12月20日、新型の軽商用車「ハイゼットカーゴ」の発表会見で明らかにした。「2030年に国内の新車販売の100%電動化を進めたい」と表明。まずはガソリンエンジンを発電のみに用いて、モーターで走るシリーズハイブリッドの軽を開発。
そのうえで「シリーズハイブリッドの利点を生かしたBEV(バッテリーのみで走る電気自動車)を開発し、しっかりとした商品投入を25年あたりで考えたいと思っている」と述べた。
2016年にトヨタ自動車の完全子会社となったダイハツは非上場だが、上場会社であれば今回の電動化戦略を市場は好感し、株価は上昇したことだろう。
しかし、実際に軽のEVがユーザーに受け入れられるのかどうかは、やってみなくてはわからない。日産自動車と三菱自動車工業は共同開発の軽のEVを「2022年度初頭に発売する」と発表している。その評価を見ながら、ダイハツもスズキもホンダも、軽のEVの商品化を判断するに違いない。
通勤や近所の買い物など近距離移動が中心の軽は本来、EVと相性がよい。長距離は走らないと割り切ってしまえば、航続距離を200キロ程度に抑え、その分、リチウムイオン電池の容量を小さくし、コストダウンと軽量化を両立させることは可能だ。
実際、日産と三菱自が発売する軽のEVは電池の容量が20kWh(キロワット時)で、一回の満充電で走ることができる航続距離は約170キロ(WLTCモード)という。
従来のガソリンエンジンの軽であっても、小型車に比べるとガソリンタンクが小さいため、燃費はよくても満タンで走ることができる航続距離は小型車に比べ決して長くない。
とは言え、ガソリン車の軽であれば、小型車同様に高速道路を走り、途中、必要あれば給油することで長距離移動することは可能だ。ところが軽のEVとなると、リチウムイオン電池の容量が限られるため高速道路の長距離移動は従来の軽よりも不得意で、途中、何度も充電しなくては、年末年始の帰省もままならない。サービスエリアの急速充電器では大渋滞が起きるだろう。
そんな使い方をユーザーが許容するだろうか。軽のEVは通勤や買い物用のセカンドカーで、長距離ドライブ用にファーストカーがあれば問題ないが、一家のクルマが軽のEVだけだとすると、使い勝手に不満がでるかもしれない。
奥平社長は会見で「(軽のEVの)価格は100万円台でないとお求めになっていただけないと思う」とも述べ、政府や自治体の補助金を含め実質200万円未満の価格とする考えを示した。
ダイハツは圧倒的な低コストで顧客が求めやすい価格を実現する「良品廉価の追求」が社是だ。軽のEVはリチウムイオン電池の容量を少なくすればコスト削減と軽量化につながるが、航続距離は限られる。そのバランスをどうするのか。
2022年度初頭に日産・三菱連合から登場する軽のEVの市場評価を最も気にしているのは、ダイハツはじめライバルのメーカーかもしれない。