トヨタ自動車とSUBARU(スバル)が共同開発した両社初の本格量産電気自動車(EV)が相次ぎ発表となった。トヨタは「bZ4X」、スバルは「ソルテラ」と名付けたEVのSUVだ。
いずれも2022年の年央にかけ日本、北米、中国、欧州など世界で発売するという。果たしてEVとしての実力はどうなのか。
SUVのEVは世界のトレンドとなっている。米テスラは「モデルY」、独BMWは「iX」を既に発売。日産は11月12日、「今冬発売」としていた「アリア」の限定モデルを2022年1月27日、量産モデルを3月下旬に発売すると発表した。
このクラスには日米欧の有力メーカーが相次ぎ参戦することになる。後述するように、リチウムイオンバッテリーの容量や航続距離など基本的な性能も拮抗している。ユーザーにとって、一体、何が決め手となるのだろう。
注目のトヨタbZ4Xとスバルソルテラは共同開発の姉妹車だ。トヨタが10月29日、スバルが11月11日、それぞれ両車の詳細を明らかにした。
トヨタは「EV開発に出遅れた」「ハイブリッドカー(HV)などエンジン車に固執している」などと大手メディアに批判されているが、筆者はそんなことはないと感じている。
むしろトヨタは後発だけに、テスラや日産などEVの先行メーカーを研究し、EVの弱点を克服することで、商品力でライバルをリードしようとしている。
具体的にはリチウムイオンバッテリーの性能だ。トヨタは「使用期間10年、もしくは走行距離24万キロのいずれかで電池の容量を90%維持できる」と発表した。
EVは航続距離の短さや充電時間の長さが弱点として強調されるが、もう一つ、バッテリーの経年劣化の問題も小さくない。EVは充放電を繰り返すうちにバッテリーが劣化し、数年で航続距離がどんどん短くなっていく。
2010年発売の初代日産リーフを町で見かけなくなったのは、このためだ。初代リーフは東京や大阪などではタクシーとしても導入されたが、今日ではまったく見かけない。
そこでトヨタは「長年のHV開発で培った技術を活用し、世界トップレベルの電池容量維持率を目標に開発した」という。トヨタがbZ4Xに搭載するバッテリーも経年劣化は避けられないが、従来のバッテリーの容量が数年で急激に低下するのに対し、10年後でも9割を維持するというのは大したものだ。
さらにトヨタは「冬場の航続距離」にも配慮した。EVは夏のエアコンよりも冬のヒーターの電力消費が大きく、航続距離が短くなる。この弱点を克服するため、トヨタはヒートポンプ式のエアコンのほか、シートヒーターやステアリングヒーターで局所的に乗員を温めることで暖房の効率を高め、航続距離の落ち込みを抑えたという。
気になるバッテリーの容量と航続距離はどうか。トヨタとスバルは基本的に同じバッテリーで、容量は71.4kWh(キロワット時)。航続距離はFFが530キロ前後、4WDが460キロ前後だ。
日産アリアは66kWhと91kWhのバッテリーがあり、航続距離は最も短い66kWhの4WDが430キロ、最も長い91kWhのFFが610キロだ。
テスラはバッテリーの容量を公表していないが、モデルYの航続距離は標準仕様が480キロ、長距離仕様が505キロ。BMWのiXは76.6kWhが425キロ、111.5kWhが630キロとなっている。
トヨタとスバルは販売価格を明らかにしていないが、日産は22年3月に発売するアリアの66kWhのFFモデルの価格を539万円と発表した。
ライバルとなるテスラモデルYはまだ日本で発売していないが、テスラのベストセラーモデル「モデル3」は454万円から。トヨタ、スバルともテスラや日産をにらんだ価格設定となるだろう。
トヨタの豊田章男社長はbZ4Xの発表会見に姿を見せなかったが、スバルの中村知美社長はソルテラの発表会見に登壇。「スバルとトヨタが切磋琢磨して、すばらしいEVが完成した」と自信をみせた。
両社によると、初代プリウスからトヨタが蓄積した電動化技術と、4WDの制御や「走り」の味付けにこだわるスバルの技術が融合し、他社にない「ワクワク感」がbZ4Xとソルテラの魅力なのだという。
ただし、中村社長は「EVのマーケットは黎明期。今は市場が作られる手前の状況だ。(エンジン車からの)移行期間をどのように対応していくのか。トヨタとのアライアンスを活用しながら判断していきたい」とも述べ、慎重な姿勢を崩さなかった。
業界トップのトヨタと組んだとしても、EVが売れる保証はないからだろう。世界市場でトヨタ・スバル連合と日産のEVはどんな評価を受けるのか。日本メーカーから世界戦略の本格EVが登場する2022年は、日本の自動車産業の今後を占う重要な年となるのは間違いない。