トヨタ自動車がいすゞ自動車と再び資本提携し、日野自動車と合わせ、日本のトラック・バス市場の8割を占める3社連合が誕生することになった。
いすゞはスウェーデン・ボルボグループのUDトラックス(旧日産ディーゼル)を2021年6月をめどに買収することになっており、3社連合に合流する見通しだ。トヨタ・いすゞ・日野・UDトラックスが文字通り大同団結することで、日本のトラック・バス市場で残るのは独ダイムラー傘下の三菱ふそうトラック・バスだけになる。
トヨタは2006年、GMが手放したいすゞ株の約6%を取得。小型ディーゼルエンジンの共同開発を目指したが、目立った成果を挙げることなく、2018年に資本提携を解消した。トヨタグループ内では、商用車メーカーとして子会社の日野が存在しており、トヨタがいすゞと組むメリットは少なかった。
ところが今回、トヨタはいすゞに5%余を出資するほか、日野とともに共同出資の新会社を4月に設立することになった。コネクティド(通信でつながる)、自動化、シェアリング、電動化を意味する次世代技術「CASE」を3社出資の新会社で開発するという。
トヨタの豊田章男社長は3月24日の記者会見で「もっといいモビリティー社会を作るためには、競争だけでなく協調していくことが大切になっている」と述べ、再びいすゞと提携する狙いを説明した。いすゞの片山正則社長は「機会があれば、もう一度、トヨタとやりたいと思っていた」と応じた。
片山社長は「日野は最大のライバルで、日々、世界中で戦っている。それはこれからも変わらない」と述べたが、「商用車を最も理解する日野と、膨大な技術、強大な実行力をもつトヨタの3社で力を合わせれば、CASEの荒波を乗り越えるイノベーションを起こせるのではと思うに至った」と心情を吐露した。
トヨタとすれば、国際競争で、いすゞとUDトラックスを海外メーカーに取られることを避けたかったという判断が大きかったのだろう。敢えて日野のライバルのいすゞを取り込むのは、軽市場で子会社のダイハツが存在するにもかかわらず、ライバルのスズキと資本提携したのと同じ構図だ。
乗用車と比べ、トラック・バスなど商用車の国際競争はあまり知られていない。乗用車と比べると、商用車は各国ごとに市場が分散し、圧倒的な世界シェアを持つメーカーが存在しないのが特徴だ。
海外メディアや市場統計などによると、かつては独ダイムラーがトップシェアを握っていたが、近年は中国の東風汽車が首位に立ち、2位ダイムラーに次ぎ、インドのタタ自動車が3位になっている。4位は日野、7位がいすゞ、8位がフォルクスワーゲングループ、10位がボルボグループなどとなり、その間を新興の中国メーカーが埋める格好だ(いずれも2020年の販売台数)。
日本メーカーは三菱ふそうトラック・バスがダイムラー傘下、UDトラックスがボルボグループ傘下だ。いすゞもボルボグループと提携している。
トラック・バスなど商用車メーカーは海外でも再編が進んでいる。電動化ではEVよりもFCV(燃料電池車)が長距離トラックなどでは有力で、国内では三菱ふそうトラック・バスを除き、FCV技術に秀でたトヨタの軍門に下る形になる。
乗用車と商用車を合わせた日本全体の自動車メーカーの勢力図を眺めると、結果として、トヨタ大連合(トヨタ、マツダ、スバル、ダイハツ、スズキ、いすゞ、日野、UDトラックス)、日産連合(日産自動車、三菱自動車工業)、ホンダの3グループに集約されることになる。
単独で生き残りを目指すとみられるのはホンダだけだが、近年は米GMとの提携を進めている。
日本の自動車メーカーは乗用車8社と商用車4社を合わせ、12社存在する。かつては、いすゞ、日野も乗用車を開発・生産していたが、乗用車から撤退し、商用車専業メーカーになった経緯がある。
1960年代の「日野コンテッサ」、1970年代以降の「いすゞピアッツァ」「いすゞジェミニ」など、趣味性の高い名車が存在したことを知る世代は少なくなっている。しかし、今なおこれらのクルマを愛するオーナーズクラブが存在するのも事実だ。
多様性があった国内メーカーの多くがトヨタを中心とする一大グループに収れんするのは、日本の自動車産業が生き残るためには必要なことかもしれない。しかし、個性的なメーカーのアイデンティティーが薄れていくことには、筆者を含む多くの自動車ファンが寂しさを感じることだろう。