ホンダは2021年度で生産を終了する軽の2シーター・オープンスポーツ「S660」を650台、追加で生産すると21年11月に発表した。
S660はホンダが21年3月、生産終了に向け、最後の特別仕様車を発売したが、注文が殺到したという。追加生産の理由は言うまでもなくS660が希少で、人気があるからだ。
自動車メーカーが生産終了を発表したクルマを追加生産するのは異例だ。
ホンダは「S660は生産終了を発表した直後から多くのお客様よりご注文をいただき、想定を大きく上回る早さで完売しました。商談途中に完売となったため、ご購入いただけなかったお客様に多大なるご迷惑をお掛けしたことにつき、改めて心よりお詫び申し上げます」とコメントした。
ホンダは最後の特別仕様車の生産台数を明らかにしていないが、21年3月の受注開始とともに、想定していた生産枠にわずか1カ月程度で達したようだ。このため22年3月までに注文すれば購入できると思っていたファンから苦情が殺到した。
メーカーがここまで早期の完売を詫びるS660とは、ホンダにとってもユーザーにとっても、思い入れの深いクルマなのだ。「S660完売」の情報が中古車市場に伝わると、S660の人気が高まり、取引価格が急上昇したという。
このためホンダは「ご購入いただけなかったお客様から追加生産について多くのご要望をいただいたため、その声にお応えすべく、社内にて検討を重ねてきました。その結果、一部部品の供給量制限により数量限定とはなるものの、αとβの2タイプの追加生産を決定しました」と、11月1日に発表した。
追加生産する650台のうち、600台は商談途中で完売となり購入できなかった一部販売店の顧客に販売するという。残る50台は専用ウェブサイトからの申し込みで抽選販売となる。
抽選の申し込みは11月12日から始めており、12月5日まで。抽選結果は12月15日にウェブサイトのライブ配信で発表するという。申し込みが殺到し、高倍率となるのは間違いない。
今回の650台の追加生産について、ホンダは「2022年3月の生産終了に向けて、これが最後の販売となります」と説明している。
ホンダS660は本田技術研究所設立50周年を記念し、社内の若手社員の商品企画をきっかけに開発、2015年4月に販売を開始した。1990年代のホンダビートの再来で、軽ながらミッドシップエンジンの後輪駆動という本格的なスポーツカーとして、ファンの支持を集めた。
今回の生産終了の理由をホンダは明らかにしていないが、衝突安全性など法規制の強化が理由のようだ。熱心なファンの支持はあるものの、S660の累計生産台数は3万台にすぎず、フルモデルチェンジするのは困難だったのだろう。
気になるのはS660のライバルであるダイハツコペンの動向だ。現行の2代目コペンは2014年の発売で、開発年次はS660と同世代となり、新たな法規制への対応が必要だろう。
ただし、コペンはダイハツのミラやタントなど大量生産の軽と同じFFレイアウトだ。稀有なミッドシップレイアウトのS660よりはフルモデルチェンジがしやすいだろう。今のところ、ダイハツからコペンについて公式な発表はない。
ホンダS660の販売価格は203万円から、ダイハツコペンは188万円からと、軽としては高額だ。しかし、日本では税負担や車検費用、保険代、部品代など、軽は維持費が安くてすむメリットがある。
このためホンダビートやスズキカプチーノなど、1990年代の軽のスポーツカーを今も街で見かけることができる。子育てを終えたシニア世代や年金生活のクルマ好きに軽のスポーツカーは格好の一台かもしれない。
ホンダS660が消えてしまうのはさみしいが、先進性とスポーツ心のあるホンダのことだ。電気自動車(EV)でもよいから、軽のスポーツカーとして次期S660の復活を期待したい。