トヨタ自動車は同社初の本格的な量産電気自動車(EV)である「bZ4X」を5月12日からサブスクリプション(定額課金)サービスで発売を始めた。当初の月額利用料は8万8220円からで、これとは別に契約時に77万円の申込金も必要になる。果たして、このシステムはユーザーにとって「お得」なのだろうか。
bZ4X(Zグレード=FF)を最長10年間使用した場合の総支払い額は、月額利用料の合計869万7480円と契約時の申込金77万円を合わせて946万7480円となる。
この総支払い額には、EVなど「クリーンエネルギー自動車(CEV)」を購入した場合、国から4年間支給される補助金(CEV補助金、4年間で85万円)が適用されている。5年目以降、CEV補助金はなくなるが、月額利用料は5年目に7万5460円となり、10年目の4万8510円まで毎年少なくなっていく。
このサブスクサービスでbZ4Xを使用できるのは、最長10年間だ。この間の月額使用料には「自動車保険や自動車税、車検代、メンテナンス代などの諸経費が含まれている」という。
さらにトヨタは、契約期間中のbZ4Xのリチウムイオン電池の容量を「10年間または20万キロの走行で70%」まで保証するという。
ここは注意が必要だ。トヨタはbZ4Xの電池の寿命を「10年間または走行20万キロ」と割り切っている。現行のリチウムイオン電池はスマートフォンやパソコンなどと同様に経年劣化が避けられないからだ。
逆に言うと、bZ4Xのリチウムイオン電池は10年間または20万キロの走行で容量が3割少なくなるということだ。ガソリンエンジン車に例えれば、ガソリンタンクが10年または20万キロの走行で3割小さくなるのと同じで、航続距離も3割短くなる。この経年劣化の進行に違和感をもつユーザーもいるだろう。
つまりトヨタは、bZ4Xを従来のガソリン車のように店頭販売で売り渡してしまうと、10年後にユーザーから電池の劣化でクレームが殺到すると考えたのだろう。電池が劣化すれば、当然、車両の下取り価格も下がる。トヨタがサブスクサービスを採用した最大の理由は、そんな無用のトラブルを避けることにあるのは間違いない。
トヨタは5月12日から年内納車分のbZ4Xの受け付けを始めるが、第一陣は3000台という。第二陣は秋口に受け付けを始めるというが、当初の3000台とはトヨタにしては、かなり保守的な販売台数だ。
電池の劣化の他にも、EVは抱える課題が多い。一戸建てで自宅に充電設備を設置できればよいが、充電設備のない旧来のマンションなどでは充電場所に困ってしまう。ショッピングセンターやディーラーの急速充電器を利用する場合、通常1回30分で充電できる量は限られる。遠出をした場合など、外出先で1回30分の急速充電を何度もしなくては帰宅できないだろう。
もちろんトヨタはそんなEVのデメリットを承知している。そこで、敢えてEVを大量に店頭販売せず、まずは10年限りのサブスクサービスにすることで、ユーザーの反応を見ることにしたのだろう。
一方、トヨタとEVを共同開発したSUBARU(スバル)も、bZ4Xの姉妹車「SOLTERRA(ソルテラ)」の受注を同じく5月12日から始めた。こちらは通常の店頭販売で、メーカー希望小売価格は594万円からとなる。スバルは月間150台の販売を計画している。
果たしてサブスクのトヨタと店頭販売のスバルで、ユーザーの反応はどうか。電池の劣化が避けられない現状では、約600万円でソルテラを購入しても10年後の航続距離や下取り価格は期待できない。その点、月々の支払がかかっても、サブスクの方が下取り価格など考えなくてすみ、気楽かもしれない。
トヨタの目論見通りかわからないが、EVはスマホと同様、電池の寿命が来たら乗り換えるという使い方が、10年後は当たり前になるのかもしれない。