SUBARU(スバル)は2022年9月15日、同社のAWD(All Wheel Drive=全輪駆動車)の誕生50周年を迎え、累計生産台数が約2100万台になったと発表した。AWDは中堅メーカーのスバルがこれまで世界をリードしてきた技術だ。
スバルは同時に、主力車「XV」の後継となる新型AWD「クロストレック」を発表した。XVは10月16日で販売受け付けも終了し、生産を停止する予定だ。
発表したクロストレックは、多くのスバリストが期待したはずの電動化は進まなかった。このクラスのSUVは世界市場で激戦区となっている。果たしてスバルは電動化が遅々として進まないクロストレックでライバルと戦えるのだろうか。
スバルはAWDをかつて4WD(4Wheel Drive=4輪駆動車)と呼んでいたが、ジープタイプのオフロード4WDと混同されることから、欧州などで一般的なオンロード指向のAWDに呼称を統一した経緯がある。
スバルは1972年9月、日本初の乗用タイプの全輪駆動車「レオーネ4WDエステートバン」を発売。当時は世界でも唯一の乗用AWDだった。当時のジープやレンジローバーなどがオフロードの走破性を重視し、頑丈さと引き換えに乗り心地や高速性能で劣っていたのに対し、スバルは乗用車の乗り心地や居住性を損なうことなく、高速道路も走ることができた。
当時のオフロード4WDの多くは鈍重で、直進状態で一旦停止しないと四輪駆動に切り替えられなかったのに対し、スバルは走行中、ステアリングを切った状態でも即座に四輪駆動に切り替えることができ、画期的だった。
スバルはこの分野の先駆者となり、米国などでヒット。1980年代に独アウディなどに影響を与え、水平対向エンジンとともにAWDはスバルの代名詞となった。
そんなAWDの50周年を迎えた9月15日、スバルの中村知美社長は新型クロストレックの発表会見を初代レオーネ4WDエステートバンの前で行い、「新型クロストレックはスバルブランドをけん引する存在だ」と力を込めた。
これまでクロストレックはXVの北米での名称だった。XVはインプレッサ派生のクロスオーバーモデルとして2010年に発売。新型となる今回から、日本を含め世界共通でクロストレックの名称に統一することになった。
AWDと並び、近年のスバルの先進技術として定評のある運転支援システム「アイサイト」は、従来のステレオカメラ(2眼)に広角の単眼カメラを加え、3眼となった。「クルマの横から来る歩行者などの検出能力が上がり、横からの飛び出し事故の防止に役立つ」という。
3眼カメラは米テスラや独BMW、日産自動車なども採用している。スバルはこれまでステレオカメラにこだわっているように見えたが、画角の異なるレンズを組み合わせ、障害物の検知範囲を広げたことは高く評価できる。スバルは米国向けのSUV「アウトバック」の一部グレードに3眼カメラを既に導入しており、日本でも展開することになった。
一方、クロストレックは今回、水平対向エンジンに補助的なモーターを搭載するマイルドハイブリッド(HV)だけの設定となった。このマイルドHVをスバルは「eボクサー」と呼んでいるが、実際は本格的なハイブリッド(ストロングHV)に及ばない「なんちゃってHV」だ。
北米でスバルはこれまでクロストレックにプラグインハイブリッド(PHV)を設定し、環境意識の高いユーザーの支持を受けてきた。スバルはトヨタと共同開発した電気自動車「ソルテラ」を今年発売したが、従来のエンジン車にはモーターだけでも走行できるストロングHVの設定がない。
新型クロステックは日本でもPHVやストロングHVの誕生が期待されたが、叶わなかった。記者会見では当然、「なぜマイルドHVだけなのか。ストロングHVやPHVをいつ搭載するのか」などの質問が相次いだ。
これに対して、中村社長は「ストロングHVの開発は計画通り進めている。次世代eボクサーとしてしかるべきタイミングでお話したい」「PHVは商品計画にかかわるので、今回は控えさせていただく」などと述べるにとどまった。
筆者もかつて中村社長に「なぜPHVを日本でも導入しないのか」と尋ねたことがある。中村社長は「PHVは北米でも、なぜかあまり売れない」と答えるだけで、明確な回答がなかった。北米でPHVが売れないとすれば、それはスバルの売り方が悪いからではないかと言いたくなる。世界中で環境意識の高まる今こそ、スバルはストロングHVではなく、PHVでユーザーの心をつかむべきではないか。
アイサイトは進化しても、水平対向エンジンのハイブリッドなど電動化が遅々として進まないスバルの姿勢に、世界のスバリストは失望したことだろう。スバルAWD50周年の祝賀気分も吹き飛んだに違いない。