ホンダの「空」をめぐるニュースがメディアにあふれている。ホンダの航空機事業子会社「ホンダエアクラフト カンパニー」は2021年10月12日、米ラスベガスで開かれた世界最大のビジネス航空機ショーで、小型ビジネスジェット機「ホンダジェット」を大型化し、米大陸を無給油で横断できる新型機を開発すると発表した。
このニュースは日本のメディアも大きく取り上げた。だが、筆者はこれを上回るニュースがホンダ
にはあると思っている。ホンダジェットは小型ビジネスジェット機市場で2017年から4年連続で販売台数が世界一となるなど、ひとまず成功を収めている。
新型の「ホンダジェット 2600」は現行機より全長が約5メートル長く、乗客は最大8人から11人に増やし、何より、航続距離を1.8倍の約4862キロに延ばし、「全米をノンストップで横断飛行できる世界初の小型ジェット機」という触れ込みだ。
この新型ジェットの開発もニュースに違いないが、筆者が注目したいのは、ホンダが9月末に発表した「eVTOL(電動垂直離着陸機)」と呼ばれる「空飛ぶクルマ」の存在だ。
ホンダは2030年の実用化に向け、自社のコア技術を生かした新領域の商品開発を発表した。その一つがeVTOLだ。
一般的に「空飛ぶクルマ」とは、バッテリーとモーターでプロペラを駆動し、都市間を移動する次世代の乗り物を指す。人や荷物を運ぶ大型ドローンのようなイメージだ。
日本の自動車メーカーではトヨタ自動車が2020年、垂直に離着陸する「空飛ぶタクシー」を開発する米スタートアップ企業に3億9400万ドル(約430億円)出資すると発表し、開発に参画している。
海外では航空大手の米ボーイングや欧州のエアバスも「空飛ぶクルマ」の開発を進めているといわれるが、日本の自動車メーカーが独自に開発すると表明したのはホンダが初めてだ。
注目すべきは、構想段階とはいえ、内容が具体的なことだ。ホンダが開発を表明したeVTOLはバッテリーとモーターだけでなく、「電動化技術を生かしたガスタービンとのハイブリッド」とした。これは「オール電化によるeVTOLには、バッテリー容量による航続距離の課題があり、その現実的な稼働範囲は都市内移動に留まる」からだという。
ホンダは100キロ圏内であれば、バッテリーとモーターだけで移動。ガスタービンと組み合わせたハイブリッドであれば、400キロ圏内まで移動できるとしている。
構想ではホンダのeVTOLは自動運転で都市間を移動する。同じく自動運転の自動車で移動中、大渋滞に出くわした場合など、最寄りのヘリポートからeVTOLに乗り換え、目的地に到着することなどを想定している。
現時点では夢物語のような話だが、ホンダジェットや世界初の本格的な二足歩行ロボット「アシモ」などを実用化したホンダの公式発表だけに期待感が高まる。モーターと組み合わせるガスタービンが、eフューエルの内燃機関になったり、燃料電池になったりする可能性もあるのではないか。eフューエルとは、再エネによる電気分解でできた水素と空気中の二酸化炭素を原料にするもので、「カーボンニュートラル燃料」ともいわれる。
ホンダなら、きっとそんな夢を実現してくれるのではないか。楽観的かもいれないが、そんな期待
感をもって今後のeVTOL開発の行方を見守りたい。