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多数決による債権放棄 最大の壁は国税庁か

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【コロナ下の資金繰り(下)】憲法と金融機関の足並みの乱れも障害に

公開日: 2021/12/28 (ビジネス)

高島誠全銀協会長=三井住友銀HPから 高島誠全銀協会長=三井住友銀HPから

森岡 英樹 (経済ジャーナリスト)

 全国銀行協会の髙島誠会長(三井住友銀行頭取)は9月16日の記者会見で、私的整理に伴う債権放棄について聞かれ、「債権放棄を行う重要なポイントとして、債権者にとっても経済的な合理性があるかという点が挙げられると思う」と述べた。

 髙島会長の言う「経済合理性」とは、「金融機関にとって、対象企業が破産などの法的整理に至った場合に想定される回収額よりも、私的整理において債権放棄を実施しても、事業を継続していただいたほうがより多くの回収が見込めるケースなどがこれに該当する」(髙島会長)とされる。

 私的整理においては、通常、調整対象を金融債権に限定するため、事業者にとってはこれまでどおり商取引を継続することが可能であり、信用不安による事業への影響を最小限にとどめる効果が期待できる。有用な経営資源を有しながら債務が過大な事業者の早期再生が可能となり、結果的に金融機関にとっても回収期待額の増加が見込める場合は、経済合理性があると判断できるわけだ。

 その経済合理性を担保するのが、「合理的な再建計画」である。債権放棄を受けた企業には「債務免除益」が生じる。この債務免除益への課税を回避するために不可欠なのが「合理的な再建計画」で、国税庁の法人税基本通達で、「合理的な再建計画」を前提に、期限切れ繰越欠損金の損金算入が可能になることが明記されている。

 問題はこの「合理的な再建計画」をどう認定するかである。既存の準則型私的整理の枠組みでは、①中小企業再生支援などの支援機関が関与する計画、②事業再生ADR(裁判外紛争解決手続)、③裁判所への申し立てを伴う特定調停スキームーなどに基づく債務整理が認定の基準となっている。

 この既存の枠組みを参考にしつつ、中小企業の再生手続きに関する新たなガイドラインの策定について、全銀協の髙島会長は「民間金融機関が第三者の専門家と協力して業再生を後押しするような内容にしたい」(10月14日の定例記者会見)と述べている。

 だが、企業の債務整理で最大の壁と目されているのが国税庁だ。とくに中小企業についての壁は高いと言わざるをえない。まず、中小企業は決算の正確性に乏しく、財務状況の実態把握も難しいという難点がある。赤字で法人税を含めほとんど納税していない中小企業が少なくないことも税当局の不信感となっている。

 仮に私的整理のガイドラインが整備されても、国税当局から繰越欠損金の存在を否認されるケースが多数出かねないと予想される。

 また、中小企業では経営者・個人の財産と会社の財産が混然一体となっていることが大半で、経営者が私財を事業用に提供しているケースも少なくない。

 債務整理では、これら私財提供の実態を把握することが前提となるが、「私財提供は会社への資産の譲渡と見做され、出資や保証債務の履行と整理することで会社の納税は回避できるが、不動産の現物出資については、時価が取得価格を上回っていれば経営者が譲渡益課税の対象となる可能性があるほか、不動産取得税など関連税制の対象になり得る」(メガバンク幹部)とされる。

 国税庁が中小企業の債務整理で最大の壁となりかねないのはこのためだ。

 企業の債務整理で2番目の壁となりかねないのは、憲法上の財産権との関係だ。現行の債権放棄に関する法制度では、すべての貸し手が合意しなければ債務の軽減措置は決定できない。このためメインバンクと債権の保全や引当の状況が異なる非メインバンクの利害が一致せず、債権放棄が宙に浮くケースもみられる。

 こうした事態を回避し、債務整理を円滑に行うために、「債権者の多数決」で債務整理が可能となるよう法制化が検討されているわけだ。だが、この法制が検討されたのは今回が初めてではない。

 事業再生に精通した弁護士・法学博士であった故高木新二郎氏が座長を務めた「事業再生に関する紛争解決手続の更なる円滑化に関する検討会」が2014年から検討を行ったが、結局実現しなかった。最終的にネックとなったのが憲法上の財産権侵害の問題だった。

 全銀協の髙島会長は12月16日の記者会見で、この点について聞かれ、「いわゆる多数決原理の議論では、その効果として迅速な債務整理が可能となるという点が指摘されている」

 「他方、法的手続きに拠らない私的整理は、事業者、金融機関双方にとって経済合理性があることを前提として、関係者の合意に基づいて手続きを進めるのが基本的な枠組みであり、関係者が一丸となって再建計画を実行していくことに大きな意義、メリットがある」

 「それを多数決によって結論を得るとした場合、意思に反して債権放棄を迫られることになった債権者からは、その後の再建に向けた協力が得られず、却って再建に支障が出る事態も想定されるのではないか」と述べた。

 金融機関の足並みの乱れも、債務整理の3つ目の壁となりかねない。

 全銀協は中小企業の再生手続きに関する新たなガイドラインについて検討する「中小企業の事業再生等に関する研究会」を設置し、11月5日から本格検討を開始した。

 政府の「新しい資本主義実現会議」の緊急提言では、私的整理等のガイドラインについて、「金融機関団体、中小企業団体、実務家等による検討を行い、本年度内に策定し、来年度から運用を開始する」と明記されている。残された時間は少ない。
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森岡 英樹(経済ジャーナリスト)
1957年生まれ、 早稲田大学卒業後、 経済記者となる。
1997年米国 コンサルタント会社「グリニッチ・ アソシエイト」のシニア・リサーチ ・アソシエイト。並びに「パラゲイト ・コンサルタンツ」シニア・アドバイザーを兼任。2004年 4月 ジャーナリストとして独立。一方で、「財団法人 埼玉県芸術 文化振興財団」(埼玉県100%出資)の常務理事として財団改革に取り組み、新芸術監督として蜷川幸雄氏を招聘した。
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