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静かに浸透するトヨタの中国・教育投資

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【中国IT事情】清華大学にトヨタ研究センター

公開日: 2020/09/02 (ワールド, ビジネス)

Reuters Reuters

小池 政就 (日中イノベーションセンター主席研究員)

 「大家好(皆さんこんにちは)!」

 2019 年 4 月 21 日、清華大学の講堂で両手を広げて 500 人超の学生に挨拶したのはトヨタの豊田章男社長であった。同日トヨタは清華大学と連合研究院設立に合意し、社長が記念講演を行ったのである。講演中の聴衆からは拍手や笑顔が絶えず、社長の人柄や講演スタイルにもよるが、中国でのトヨタへの支持や期待が確かめられる反応であった。

 その後 2020 年初頭からの予期せぬコロナ禍を迎えた現在、8 月も終わり各企業の 2020 年度第一四半期(4 月~6 月)の決算発表もほぼ終了したが、苦戦する自動車業界の中で黒字はトヨタとスズキの 2 社のみで、他の 7 社は全て最終損益で赤字に転落した。

 またスズキは損失の一部を特別損失に振り替えたため、同社幹部が認めるように実質的に営業赤字であり、トヨタの健闘ぶりが光るものとなった。トヨタはそのつい 3 ヶ月前の 5 月に発表した 2020 年度予想では「連結営業利益 80%減」と市場を驚かせていただけに、今回の予想を覆す業績回復は再度驚きをもって迎えられて株価もコロナ急落直前の 2 月末の水準にまで戻していた。

 トヨタの世界市場での第一四半期販売台数は前年同期比で約 3 割減少したが、5 月の同社見通しが示した約 4 割減までは悪化しなかった。これを支えたのは前年同期比でむしろ約14%増となった中国市場での販売である。中国事業の大幅な黒字拡大がグループ全体の黒字を維持したと評価されている。

 7 月の中国販売台数は 16 万 6 千台と前年同月比で約 19%増となり、反対に約 19%減となった米国販売の 16 万 9 千台といまや並んでいる。これは中国経済全体の復調が背景にあるだけでなく、トヨタ車が中国の消費者に着実に受け入れら
れている結果でもある。

 トヨタは中国で「植樹 15 年、教育 25 年」を積み重ねることを重視しており、ここでは冒頭で紹介したようにトヨタとも縁の深い清華大学との関係を含め教育分野に注目していく。

 トヨタは1964年にクラウンを輸出して以来、中国と50余年以上にわたって関わってきた。現地進出は 1980 年からの整備技術指導やその後の製造技術援助を通してであり、全土に拡大したネットワークをもとに 2002 年から乗用車の本格生産を始めている。並行してトヨタは清華大学とは 1998 年から毎年技術検討会を行い、2003 年から共同研究を開始し、「グローバル経済の持続的発展」といった中長期的な観点を育成してきた。

 その後 2005 年 3 月に清華大学公共管理学院との共同研究所を設立し、「産業発展と環境保全」に関する研究の独立性を尊重し学術活動には干渉しないという方針の下、一期五年で三期合計 5400 万元を提供している。2006 年 3 月には清華大学内に初めて社名が入った「トヨタ研究センター」を設立している。

 ここでは大気汚染などの環境分野、エネルギー、材料科学を中心により具体的な研究と論文発表を重ね、現在は三期目に入っている。その後も清華大学内の他の研究所で人工知能や燃料電池の各分野の共同研究を進め、改めて冒頭の通り 2019 年 4 月にトヨタ社長来訪時に「清華-トヨタ連合研究院」を設立している。

 ここでも環境問題の解決に加え、交通事故低減の観点からも優れた新技術を搭載した車両の開発・普及を図っている。また、トヨタは 2006 年に教育基金を設立し、中西部の 20 の大学に通う貧しい学生達が学業に集中できるよう資金が提供され、2023 年までの予定を含めた累計で约 8730 万元にのぼり、約 2980 名の学生が対象となる。

 災害が発生した際には奨学金基金の範囲も被災地に拡大され、被災地で両親を亡くした孤児や大学生の研究補助に費やされている。更に清華大学や北京大学を含む全国 11 の有名大学から選抜された優秀な学生に対する奨学金の授与も行っている。

 支援を受けた大学生達は、現地のトヨタの自動車生産工場を訪問する機会が与えられ、トヨタの企業文化に触れながらモノ作りの意義や環境への配慮および「援助、互助、自助」といった理念を社会に広げることが期待されている。

 「教育 25 年」を掲げるトヨタが中国の大学と積み重ねてきた取り組みは既に 22 年を過ぎた。商品である自動車の高い品質や現地雇用を増やす現地生産比率の向上に比べ、地味で地道な教育面での取り組みは徐々にではあるが現在および未来の消費者の支持を重ねているように思える。

 環境志向や持続的発展といった概念を浸透させながら自らの次世代型自動車への需要を拡大させていく戦略性と、企業の社会性や商品イメージを通して情感に訴えるような効果が透けて見える。冒頭の講演会やキャンパスの特設会場で豊田社長がドリフト走行を披露する車を見つめる学生達の目の輝きからは期待が感じられた。
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小池 政就(日中イノベーションセンター主席研究員)
工学博士、日中イノベーションセンター主席研究員。丸紅勤務、東大助教、日大准教授、衆議院議員を経て北京へ。
専門は国際関係、エネルギー、科学技術と幅広く、米国、英国でも留学および勤務歴あり。
現在はブロックチェーン企業の顧問も務める。
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