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人事の天才、徳川家康

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【新1万円札の顔、渋沢が愛した資本主義(9)】「論語と算盤」から何を学ぶか

公開日: 2023/03/05 (ビジネス)

渋沢栄一氏=PD 渋沢栄一氏=PD

三橋 規宏 (経済・環境ジャーナリスト、千葉商科大学名誉教授)

 渋沢の著書『論語と算盤』のキーワードは前回コラムで取り上げた「仁義道徳」「士魂商才」についで、「適材適所」が挙げられるだろう。

3 適材適所

 渋沢は、部下を適材適所に使いこなす能力を経営トップに立つ人物に求められる資質の一つとして、とりあげている。その点で徳川家康を高く買っている。「論語と算盤」でも次のように述べている。

 「我が国でも賢人、豪傑はたくさんいる。そのうちでも最も戦争が上手であり処世の道が巧みであったのは、徳川家康公である。処世が巧みだったため、多くの英雄、豪傑がひれ伏し15代続く徳川幕府を開くことができた。だから200年余りの間、人々は枕を高くして寝ることができた。これは実に偉業と言えよう」(一部筆者が意訳)。

 家康が長期間、徳川幕府を開くことができたのは、部下の能力、特技を入念に調べ上げ、適材適所を実践してきたからにほかならない。家康は部下たちに様々な教訓、遺訓をのこしている。部下だけではなく後継者たちに対しても様々な教えを遺している。

 家康の教訓、遺訓の多くは論語から出ていると渋沢は言う。例えば家康が好んで口にした言葉、「人の一生は重荷を負って遠き道を行くがごとし」は、論語の「士はもって弘毅ならざるべからず。任重くして道遠し・・」(指導者は度量が広く強い意志をもたなくてはならない。なぜなら責任が重く、道は遠いからである)からきている。

 また、「己を責めて人を責めるな」、「及ばざるは過ぎたるより、勝れり」、「堪忍は無事長久の基、怒りを敵と思え」なども論語が出所になっていると説明している。

 渋沢によると、適不適を判断して、適材を適所に配置することの大切さは、人を使う者が常に口にする。だが人の心の中には魔物が棲んでいる。適材適所で人を配置すると言いながら心の魔物がよからぬ権謀を企む場合がある。自分の権力を拡大するため、自分の部下を適材適所に送り込んで、一歩一歩、一段、一段と自分の勢力を拡大していく。このようにして、自分の派閥を築き上げてしまえば、政界でも実業界でも、一般の社会でも確固たる権力を握ることができる。しかし「そのような行き方は断じて私の学ぶところではない」と渋沢は切って捨てる。

 渋沢は続ける。

このイラストは蔣海倫が描きました

 「徳川家康という人ほど巧みに適材を適所に配備して、自分の権勢を上手に広げた権謀家を私は知らない」(意訳)と述べ、江戸に幕府を構えるに当たって、部下の配置についてあらかた次のように語っている。

 「居城、江戸の警備として、関東は代々徳川家に仕えてきた譜代大名で固めた。関所のある箱根を前に、大久保相模守を小田原に配備した。御三家のひとつ、水戸家をもって東国の門戸を抑える。尾州家をもって東海の要衝を固め、紀州家をもって大阪に背後から睨みをきかす。さらに井伊家を彦根に置いて、皇室のある京都を見張るなどその人物配置は精緻を極める」(意訳)と。

 さらに続ける。

 「私は適材を適所に配備する工夫において、家康の知恵にあやかりたいと絶えず苦労しているが、その目的においては全く家康に倣う所がない。渋沢はどこまでも渋沢の心をもって、自分と一緒にやっていく人物と向き合うことにしている。その人を道具に使って自分の勢力を築こうなどという私心は毛頭ない。私の素直な気持ちとしては適材を適所に得ることだ。適材を適所に配置して、何らかの成績をあげることができれば、その人物が国家社会に貢献する本来の道だ。それが渋沢の国家社会に貢献する道だ」(同)と。

 渋沢は家康の適材適所を高く評価するものの、家康の適材適所は結局、徳川家のお家安泰のためだったと述べ、その限界を指摘することも忘れない。自分の考える適材適所とは天下国家に貢献できる人材を見つけ、適材を適所に処遇することである。それが国家の繁栄につながる、自分は多くの人と巡り合うが、そのような観点から人材を発掘している、と指摘している。

 渋沢は一族、一派閥、一企業、一地域などの繁栄のためではなく、広く天下国家の発展に役立つ人材を発掘し、適材、適所に配すことの大切さを強調し、そのために貢献することが自分の生き方だと繰り返し強調している。

 余談になるが、渋沢の適材適所は今日の日本政治の世界で最も求められている。新しく就任した首相が閣僚や補佐官、アドバイザーなどを指名、任命する場合、天下国家のためではなく、首相陣営の勢力拡大のために配置する。深刻な気候変動対策や新型コロナウイルスの感染拡大対策などに直面し適材の登用が急務にも拘わらず、知識不足,忖度上手の不適切な人材が中核部署に配置されがちだ。その結果、政策効果がほとんどあがらない状況が続いているのはなんとも嘆かわしい。

 4 蟹穴主義

 渋沢は「身の丈に合った生き方を貫いてきた」と自分の人生を振り返る。蟹は甲羅に似せて穴を掘るというが、自分の生き様はあえて言うなら、蟹穴主義だという。

 世の中には随分と自分の力を過信して大きな野心を抱く者がいるが、前に進むことばかり知って、身の丈に合った生き方を知らないととんだ間違いを引き起こすことがあるから注意しなければならないと警告している。

 渋沢は「論語と算盤」の中で、「今から10年ばかり前に、ぜひ大蔵大臣になってくれだの、日本銀行の総裁になってくれだのという交渉を受けたことがある。自分は明治6年に感ずる所があって、実業界に穴を掘って入ったので、今さらその穴を這い出すこともできないと思って固辞した」述べている。

 「孔子は『進むべきときは進むが、止まるべきときは止まる、退くときは退く』と言っている」が、人は出処進退が大切だ。とはいえ、身の丈に合った生き方をするからと言って進取の気持ちを忘れてしまってはなにもできない」(意訳)とも言う。

 「なすべきことをなさなければ、死んでも故郷に還らない」、「大きな仕事を成すときは細事にこだわるな」、「男子たるもの、一度決心したなら、乾坤一擲、胸の好くような行動を目指せ」などの格言を胸に秘めて頑張ることは大切だが、気持ちが上ずり、身の丈を忘れてしまわないように心がけるべきだ、とも指摘し、心のバランスを保つことの大切さを強調する。

 孔子は「心の欲する所に従って、矩(のり)をこえず」と言っている。

 身の丈を知り、矩(道徳、規律)をこえずにバランスをとって生きるためには日頃から心がけねばならないことがいくつかある。

 特に青年が注意しなければならないのが喜怒哀楽である。青年に限らずおよそ人間が道を誤るのは様々な感情が暴発してしまうからだ。孔子も喜怒哀楽の調節が必要なことを述べている。私も酒を飲むし遊びもするが常に乱れ過ぎないように限度を心得て行動している。

(注)この連載は毎週日曜日午後に掲載予定。次回は3月12日(日曜日)になります。
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三橋 規宏(経済・環境ジャーナリスト、千葉商科大学名誉教授)
1940年生まれ。64年慶応義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、科学技術部長、論説副主幹、千葉商科大学政策情報学部教授、中央環境審議会委員、環境を考える経済人の会21(B-LIFE21)事務局長等を歴任。現在千葉商大学名誉教授、環境・経済ジャーナリスト。主著は「新・日本経済入門」(日本経済新聞出版社)、「ゼミナール日本経済入門」(同)、「環境経済入門4版」(日経文庫)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「日本経済復活、最後のチャンス」(朝日新書)、「サステナビリティ経営」(講談社)など多数。
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