今年春のルネサス工場の火災による車載用半導体不足の問題を脱した日本の自動車メーカーは、再びサプライチェーンの混乱の影響に見舞われている。マレーシア、インドネシア、ベトナムなど東南アジアでの感染拡大の影響で現地工場が停止し、半導体やその他自動車関連部品の供給に大きな支障が生じているのである。
東南アジアは、日本の自動車業界にとって生産拠点の集積地だ。国内自動車部品会社の海外生産拠点の3割は東南アジアにある。感染拡大によって自動車業界のグローバル・サプライチェーンの問題が、再び浮き彫りになってきた。
トヨタは8月下旬に、8月24日~9月の間、国内で14工場・27ラインの生産を最大で22日間止めることを発表した。8月単月では3万7千台の減産影響が出る。さらに9月にも大規模な生産調整を行う。減産規模はグローバルで約36万台、4割減となる。国内の減産は約14万台だ。
ダイハツは国内主力4工場を最大17日停止し、8~9月に3万~4万台減産する。昨年同期比で19~25%程度の減産幅になるという。ホンダは8月に、中国・広東省広州市の工場で、7月末の生産計画の2割に当たる2万台を減産した。国内でも一時、鈴鹿製作所の稼働を止めた。日産自動車はマレーシアからの半導体調達に影響が出て、8月16日から2週間、米テネシー州の工場を停止している。減産規模は数万台の見通しだ。
▽トヨタ自動車は減産を拡大
ところがトヨタ自動車の減産は、当初見込みよりも格段に大きく広がることが明らかになった。9月10日にトヨタ自動車が発表したところでは、9月の減産を約7万台分追加し、また10月は当初計画から約33万台減産する見通しとなったという。両月で合計約40万台の減産となる。2022年3月期の生産台数も、従来見通しの930万台から900万台程度に引き下げる。
トヨタ自動車の追加減産によって、10月にかけての減産は国内自動車全体で22万台程度から62万台程度へと増えることになった。これは、後の挽回生産分を考慮しない場合には、年間の自動車生産額を7.33%減少させる。
自動車生産額が製造業の生産額(2015年)に占める比率は15.47%、自動車生産(付加価値ベース)が名目GDP(2019年)に占める比率は、3.17%である。これから、年間7.33%の自動車減産は、名目GDPでみて1兆2,600億円程度の経済損失を生む計算だ。
ちなみに、自動車減産の影響で7-9月期実質GDPは、前期比年率1.73%押し下げられる計算となる。7-9月期の成長率は、拡大と延長を繰り返す第4回緊急事態宣言による5.7兆円と推定される経済損失に加えて、世界的なグローバル・サプライチェーンの混乱による自動車減産の悪影響を大きく受け、2四半期ぶりのマイナス成長に陥る可能性が高まっている。
自動車減産で7-9月期再びマイナス成長も |
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【木内前日銀政策委員の経済コラム(103)】感染拡大で東南アジアの部品工場停止が波及
公開日:
(ビジネス)
Reuters
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木内 登英(前日銀政策委員、野村総研エグゼクティブ・エコノミスト)
1987年野村総研入社、ドイツ、米国勤務を経て、野村證券経済調査部長兼チーフエコノミスト。2012年日銀政策委員会審議委員。2017年7月現職。
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