“才媛”の誉れ高い美貌の娘に対して、退き際を誤った老残の父。あるいは近代的な経営を標榜する革新的な合理主義者の二代目社長と、旧来のやり方を意固地に踏襲する頑迷固陋な創業会長。
新聞やテレビ、雑誌を通じて報じられた大塚家具の親子バトルについて、多くの読者や視聴者はそうした分かりやすい構図を受け入れてきたことだろう。だが、はたしてそれが「真相」といえるのか? 実は両者のバトルには、メディアを通じたPR戦略によって過分に演出された面があるのである。
大塚家具の大塚久美子社長は3月17日、BSイレブンの「報道ライブ21 インサイドアウト」に出演し、「株主一人ひとりに説明してご理解を願っている」「社員が動揺し、お客様に影響が出ている」などと自らの正当性を主張した。
キャスターの露木茂が「旧体制との新体制との軋みが感じられる」と発言し、ゲストもおおむね久美子に同調。さらに久美子は23日、フジテレビのスーパーニュースにも生出演し、「5年かけて何度も(実父の勝久会長に)説明してきたのに、(会長の)思い込みがなかなかとれない」と言い、同様に自らの正当性をアピールしている。いずれも27日の株主総会を前に久美子擁護色の強い番組だった。
美貌で華がある久美子は、特に視覚的な印象を大事にするテレビには受け入れられやすい。放送時間も限られているので、勢い久美子側の一方的な主張が放映されやすい。おそらく、そんな計算が久美子側に働いているのではないか。
全国紙のベテラン経済記者が嘆く。「意図的なメディア選別が行われているのです。ウチも何度もインタビューをお願いしているのですが、一向に実現しない。辛口の質問をされることや勝久会長と平等に扱われるのを恐れているのではないですかね」。そしてこのベテラン記者は「久美子さん側にはメディアゲインという広報コンサルティング会社がついています」と打ち明けた。
メディアゲイン――。新聞やテレビの取材記者の間では知らないものがいない著名な広報コンサルティング会社である。
社長は小川勝正。日刊ゲンダイやプレジデントで働いたり、渡米したりした経験があるらしい。1995年に新橋で創業し、当時は数人の小さなコンサルティング会社だった。しかし、金融機関の不良債権処理や経営破綻、M&Aなどが相次いだ今世紀初頭、従来の企業広報の枠組みでは対処できない案件で頭角を現す。
これまでに、大量リコール騒動で経営危機に瀕した三菱自動車の再建問題に関連して、三菱自動車に出資した投資ファンドのフェニックス・キャピタルの広報アドバイザーを受任。さらに楽天とTBSの攻防では楽天の、サーベラスと西武ホールディングスの攻防ではサーベラス側のそれぞれアドバイザーを務めている。
経営危機や敵対的買収など揉め事が起こると、たいてい顔を出すのがメディアゲインというのが、最近の通り相場になっている。大塚家具の「お家騒動」でも、コーポレートガバナンスやコンプライアンスを錦の御旗に久美子に正当性があるかのような演出に成功したといえるだろう。
さらに久美子陣営に就いているとされるのが、M&Aアドバイザリー業務を手掛けるフロンティア・マネジメントだ。創業メンバーの大西正一郎と松岡真宏は、かつての産業再生機構の中心メンバーで、ダイエーの経営再建に取り組んだ。
再生機構が役割を終えて解散するとフロンティア社を創業。このフロンティアに執行役員(広報担当)として一時身を寄せていたのが、2004年にいったん大塚家具を退社していた久美子だった。そんな縁があってか、今回も大西が久美子に助言しているようだ。
大西はもともと弁護士で企業法務面には明るい。日本航空の経営危機の際には民主党政権の前原誠司国交相の肝いりでJAL再生タスクフォースのメンバーに加わった。さらに福島第一原子力発電所事故が起きると仙谷由人官房副長官が尽力してできた東電経営財務調査タスクフォース事務局の次長にも就いている。加えて西村あさひ法律事務所の中山龍太郎弁護士も参画しているもようだ。中山はM&Aや企業法制に明るい弁護士である。
こうしたコンサルタントをそろえた久美子陣営の攻勢に対して守勢にさらされたのが、会長の勝久の側だった。大塚家具の幹部社員は匿名を条件にこう打ち明ける。「メディアが伝えるのとは真相がだいぶ異なります。我々社員の多くは久美子さんを快く思っていない。会長(勝久)はそんなに悪くないですよ」――。 (敬称略)