今年1~3月期における大手米銀の決算が揃って発表されたが、各行とも事前の予想を上回る空前の好決算となった。
今年1~3月の純利益はJPモルガンが143億ドル(前年同期比4.9倍)、ゴールドマンザックスも68億ドル(同5.6倍)と四半期決算としての既往最高益を更新した。バンカメ、シティコープ、ウェルスファーゴも好決算となった。
好決算の背景としては、第一に融資の貸し倒れが想定を下回り、多額の貸倒引当金の繰り戻しが生じたことだ。連邦政府による大胆な企業支援で企業倒産が予想外に少なかったためだ。ちなみに六大米銀は960億ドルの引き当てを手当てしたが、その半分を繰り戻した。
第二には投資銀行業務の好調である。各行とも債券・株式のトレーディング、投資顧問業務などが株式市場のブームを反映して記録的な収益をあげた。投資銀行専業であるゴールドマンザックスはROEがグローバル金融危機前を抜き31%に達した。同社CFOは「ROEがこの水準からさらに上がっていくことは当分考えられない」と投資家に釘を刺しているほどの高収益であった。
投資銀行業務を業務別にみると、株式引き受け業務は特別買収目的会社SPACのブームが起きたことが好影響を与えた。このSPACを中心に米銀は株式公開の引き受けと企業合併のアドバイザーの両方の側面で莫大な手数料を得ることができた。ちなみにゴールドマンザックスの株式引き受け部門の収入は16億ドルと4倍になり、M&Aアレンジ取引も38億ドルと巨額の収入を得た。
これに対して商業銀行業務は、この景気回復のペースのわりには融資が伸び悩み苦戦を強いられた。その理由としては、企業のコンフィデンスが低いままにとどまっていることや政府による企業に対する経済支援が米銀の融資をクラウドアウトしたためだろう。
ちなみにJPモルガンの消費者、企業部門の融資残高は前年比4%減少したため、同行の消費者金融部門収入は6%の減収となった。シティコープも消費者金融部門は赤字となり、採算性の低い同部門をオーストラリア、韓国、マレーシア、フィリピンなどアジア地区を中心に世界13か所で売却する旨発表した。
そのシティコープの収益をみると、収入が79億ドルと前年同期の25億ドルから急増したが、そのうち38億ドルが貸倒引当金の繰り入れにともなうものであった。
このような好収益決算を発表したにもかかわらず、株価の反応は鈍く、JPモルガン、バンカメ、シティコープなどの株価が下落した。商業銀行部門が総じて不調であったこと、投資銀行部門の収益もSPACブームによる影響が大きい、貸倒引当金の繰り戻しの影響が大きい、などを反映したものとみられる。
先行きの見方については二分される。ジェミー・ダイモンJPモルガンCEOは「今後数年、米国景気が勢いよく拡大を続けていく」として米銀の収益環境の改善が続くと自信を示している。ワクチン接種率が上がっていくに従い個人消費も力強さを増すとみられ、消費者の借り入れやクレジットカードの利用も増えていこう、との見立てもある。
長期金利の上昇予想も銀行収益にとってはプラス材料である。FRBは短期金利水準を長期間にわたって抑制する方針を示している一方、長期金利はインフレ再燃懸念や景気楽観論を背景として上昇していく公算が強い。
従って、長短イールドカーブはスティープ化して、さらに収益拡大を生んでいくからだ。もっとも、金利上昇は債務過大な企業の業績を悪化させるほか、金融市場でも500兆ドルに及ぶスワップ取引などデリバティブ市場に混乱が起きかねないことは要注意である。
一方で弱気な見方としては、今後、株式市場などのブームが次第に弱まっていくにつれて投資銀行部門の利益も減っていくであろうとの見方がある。また、米国企業の借り入れが歴史的高水準に達しているため、今後の金利上昇によって不良債権も自ずと増えていくとの見方もある。
さらにいわゆる「財政の壁」の議論もあり、財政刺激規模が年々弱まっていくことを考慮すれば成長率も低下していくとみられることも銀行の業務拡大ペースを鈍らせることにつながるとの指摘もある。