• tw
  • mail

カテゴリー

 ニュースカテゴリー

  • TOP
  • 独自記事
  • IT/メディア
  • ビジネス
  • ソサエティ
  • スポーツ/芸術
  • マーケット
  • ワールド
  • 政治
  • 気象/科学
  • コロナ(国内)
  • コロナ(国外)
  • ニュース一覧

コロナウィルス感染拡大で大苦境のクルーズビジネス

あとで読む

【経済着眼】クルーズを愛するファンのために、経営難を乗り越え、安全を確保せよ

公開日: 2020/06/26 (ビジネス)

ダイヤモンド・プリンセス号=Reuters ダイヤモンド・プリンセス号=Reuters

俵 一郎:経済着眼 (国際金融専門家)

 新型コロナウィルスは順調に拡大してきた世界のクルーズツアーに大打撃を与えた。かく言う筆者も申し込んでいた秋口のクルーズツアーが催行中止になる、と知らされた。ダイヤモンドプリンセス号が横浜港で日本当局によって隔離され、712名の乗客のうち13名が死亡、当時、中国以外としては最大のクラスターとなった。さらに姉妹船であるグランドプリンセス号も78名に陽性反応があった。別の会社のウエステルダム号も感染の疑いがあり、日本、フィリピン、タイから入港を拒否されてカンボジアでようやく入港を認められるなど、クルーズ船を巡る感染騒動が響いている。

 国際クルーズライン協会によると、現在338隻のクルーズ船が運航停止となって港内外に係留され続けている。最大手のカーニバル社では運航停止により月間で約10億ドルの赤字を続けている。

 クルーズ業界は、リピーター比率が圧倒的に高い、普通では見られない忠実な顧客層を抱えている。世界全体で3200万人の乗客をクルージングの旅に誘っているクルーズツアーの人気は絶大である。いったん乗船したら荷物を部屋に入れたままでよい、洋上でも退屈しないように映画、スポーツジム、豪華なショーカジノなどを一日中開く、正装でのフォーマルディナーを催すなど工夫を凝らしている。このため、現在に至っても世界中のクルーズ人気は衰えておらず、申し込みを開始した2021年の予約は今年とほぼ同水準になるとみられる。

 しかし、現在は豪州、カナダ、イタリア、メキシコなど各国政府が入港停止の布告を出している。そもそも世界各国で敷かれている旅行制限もいまだ続いている。夏のホリデーシーズンを控えてクルーズ各社はやきもきしているが、少なくとも8月くらいまでは各国とも入港停止と旅行制限を続けるとみられ、クルーズ各社の経営には大きなプレッシャーがかかっている。

 もちろん、運航再開の前提として、クルーズ会社側は、健康チェックや衛生面の対応を通じて信頼回復に努めねばならない。しかし、新型コロナウィルスに罹患するリスクをなくすために航海中のレストラン、劇場におけるショーなどの各分野においてソーシャルディスタンスを確保するのは容易ではない。

 またクルーズ業界が直面している困難な課題の一つが大手で一社あたり数万人に及ぶ世界中から集まってきたクルーを安全に母国に帰還させることである。感染拡大防止のため多くのクルーが足止めを食らっている。極端な例では1,600人のクルーを検査したところ、数人に陽性反応が出たため、3週間も海上で乗客もいないまま封鎖され続けている、との話もあるくらいだ。

 米国疾病予防管理センター(CDC)ではクルーの帰国にはプライベートジェットを使用する会社のみ運行を許可するという厳しい条件を付した。最大手のカーニバル社では3万人強のクルーが下船と母国への帰還を待っている。ロイヤルカリビアン社でも6月末までに5万人のクルー帰国を考えているが容易ではあるまい。

 クルーズ業界では大手3社(カーニバル、ロイヤルカリビアン、ノルウェイジャン)のシェアが全体の70%にのぼるが、いずれも亡くなった乗客の家族や病気となった乗員から損害賠償の訴訟を起こされている。この中で最大手のカーニバル社はコロナウィルスの重大性について虚偽の説明をした、感染者の下船を許したという咎めで米国、豪州などからの調査を受けている。

 新型コロナウィルスの感染で死亡したクルーズの乗客、クルーは世界全体で82名であると報道されている。世界全体で40万人の死亡者が出ている中でクルーズ業界は100名にも満たない死亡者数の割には不当に貶められていると感じる業界関係者もいる。しかし、クルーズ会社の経営陣は、CDCのようにクルージング船での感染拡大を批判する勢力の動きはクルーズ業界の将来にとって極めて深刻であると受け止めている。

 2020年代はクルーズ業界にとってクルーズブームにわく10年となるはずであった。2020年だけで総工費90億ドルをかけて19隻のクルーズ船が新造される予定であった(かなりのキャンセルもでるであろう)。そのうち、6億ドルをかけたスカーレットレディー号がブランソン氏率いるバージングループ(航空事業、レコード販売などを手掛ける)によって建造される最初のクルーズ船である。

 またクルーズ船は毎年のように次第に大型化されてきた。最大級のクルーズ船はカリビアン社所有の「海のシンフォニー」号で実に22万8千トンとあのタイタニック号の5倍に達し、10階相当のウォータースライドやアドベンチァーパークまで船内に備えている。

 世界経済に対して1,500億ドルの付加価値を提供するクルーズツアー業界であるが、クルーズ乗船客数は昨年における世界の旅行者11億人に対してわずか3%に過ぎない。その中で大手3社は2019年中で380億ドルの収入で60億ドルの利益を上げてきた。

 しかし、いまや彼らは運航停止が長引きそうな情勢の中で破綻を回避するため必要な流動性を集めるのに必死である。ノルウェイジャン社が2隻の船と2つの島を担保に24億ドルを調達(1年半は運航なしでもしのげる規模)した。カーニバル社も従業員のレイオフと賃金カットを行ったうえで、サウジのファンドからの4.3億ドルの出資を含めて総額64億ドルの資金を確保した。ロイヤルカリビアン社も船舶担保により33億ドルを調達したものの、S&P、ムーディース社から格下げを宣告されてジャンク扱いの格付けとなった。

 業界はクルーズ船のメンテナンスコストに直面しているだけでなく、顧客からのキャンセルに伴う返金から相当のキャッシュの流出にも見舞われている。ちなみに3月末には大手三社で18億ドルの顧客預り金があった。

 クルーズ船は他の貨物船、タンカーなどの商用船舶と同様にパナマ、バハマなどの便宜置籍船となって税金の軽減を図ってきた。したがって、米国政府などの企業救済スキームの適用を受けることはできない。欧州のクルーズ会社ではEUに支援を求めたものの、便宜置籍船として長年、税金逃れを図ってきたうえ、納税者からそういう会社を支援するのは許せないと抗議を受けるのは必至であるため、EUも支援策について拒否回答を行った。
 
 クルーズ船は有害な廃棄物を外洋にまき散らして魚介類などに悪影響を与えているとの批判も大きい。カーニバル社は2016年、マイアミ裁判所より7項目にわたる環境汚染-オイル、汚水等の海上投与で有罪を宣告された。またクルーに対して劣悪な労働条件を課していることも批判の対象となっている。2016年の民間機関による調査によれば、クルーに対して週70時間労働、9か月間にわたって休日も有給休暇も与えないという過酷な労働条件を強いた例もあると報告されている。過剰労働を苦にして自殺に追い込まれたクルーすらいる、と国際乗員組合では報告している。

 公衆の信頼を回復するためにクルーズラインは健康面のチェックの厳格化ならびに衛生面の飛躍的向上が不可欠である。カーニバル社は「クルーの安全、健康に関するコンプライアンスを遵守、環境保護に尽くすこと、顧客の健康を守ることが最優先課題である」と明言している。専門家からは乗船前の健康面のスクリーニング(乗船前、28日間の医療記録の義務付け等)、各客室で外気との換気を徹底すること、上陸後の観光等に制限を課すこと、各種の行事催行の時間を分散すること、などが提唱されている。ただ乗船率を50%にして密を避ける必要性も指摘されているが、大型船で3~4千人という乗客数(その場合クルーは7~8百名)を半分にした場合、損益分岐点を上回ることができるか危ぶまれる。

 繰り返しになるが、リピーター率が85%という驚異的な高さを誇る世界的なクルーズ人気は衰えていない。新型コロナウィルス感染が起きた後でのクルーズツアー経験者に対するアンケート調査でも「66%が従来同様にクルーズツアーに参加する、10%がこれまで以上にクルーズに参加する」との驚くべき結果も出ている。

 まずは各社とも財務面でも苦しいこの時期を乗り越えなければならない。そのうえで大手クルーズ会社の作成したチェックリストによれば、健康チェック、衛生面の対応強化、ソーシャルディスタンスの確保など、およそ50項目にも及ぶ条件をクリアしなければならない。しかし、アフターコロナ時代においても人生を楽しみたいというクルーズ客の存在は不変であり、この苦境を乗り越えてクルーズの旅を楽しめるようになりたいものだ。
続報リクエストマイリストに追加

以下の記事がお勧めです

  • 【経済着眼】 EU存続の危機が一転、EU統合の深化の兆しも

  • 【経済着眼】 超楽観的な見方反映した米国株価上昇に違和感

  • 俵 一郎のバックナンバー

  • フィンテック、文化違う人材が担う

  • 強硬路線の金正恩――バイデン大統領はどう臨む?

  • 韓国、”資本主義の仮面を被った疑似社会主義体制”

  • コロナで後手後手に回る菅首相、我を通す悪い癖でる

Tweet
LINEで送る

メニュー

    文字サイズ:

  • 小
  • 中
  • 大
ソクラとは 編集長プロフィール 利用案内 著作権について FAQ 利用規約 プライバシーポリシー 特定商取引法に基づく表示 メーキングソクラ お問い合わせ お知らせ一覧 コラムニストプロフィール

    文字サイズ:

  • 小
  • 中
  • 大
  • 一覧表示を切替
  • ソクラとは
  • 編集長プロフィール
  • 利用案内
  • 著作権について
  • メーキングソクラ
  • お知らせ一覧
  • FAQ
  • 利用規約
  • プライバシーポリシー
  • 特定商取引法に基づく表示
  • お問い合わせ
  • コラムニストプロフィール

Copyright © News Socra, Ltd. All rights reserved