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インドの政商アダ二氏の挫折 親密モディ首相にどう波及

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【経済着眼】空売りファンドが標的、野党の追及始まる

公開日: 2023/02/09 (ワールド, ビジネス)

アダニ本社=Reuters アダニ本社=Reuters

俵 一郎 (国際金融専門家)

 米国の空売り業者ヒンデンブルグ・リサーチが1月24日に公表した調査をきっかけにインドの資産家ゴータム・アダニ氏が率いるアダニ・グループの株価が急落した。

 ヒンデンブルグはアダニ・グループが租税回避地(タックスヘブン)として有名なモーリシャス、カリブ海諸島などに多くのダミー会社を設立(ゴータムの実弟名義だけで38社に上る)、アダニ一族の株式保有の実態を隠すためにダミー会社経由の投資が行われてきたうえ、巧妙な不正会計処理を行ってきた、と断定した。

 さらにアダニ・グループの主要7社で株価がこの数年で8~9倍にもなった背景には、大胆で不誠実な株価操作の存在があると糾弾した。もちろん、ヒンデンブルグはアダニ・グループに対する大量の空売りを自ら浴びせ、さらにこのレポートで空売りを煽って莫大な利益を上げることを狙いとしている。

 アダニ・グループは、株価の急落で、時価総額が半分となり、1,000億ドル(約13兆円)以上を失うことになった。フォーブスで世界第3位の資産家と位置づけられていた総帥のゴータム・アダニ氏は株価の急落でその資産規模が同19位まで後退した。

 1月29日、アダニ側は400ページに及ぶヒンデンブルグの調査レポートを根拠に欠けると全面否定した反論ペーパーを公表した。その際、「たんに特定の会社に対する根拠のない攻撃を仕掛けたというのにとどまらず、インドの独立、統一性や成長性に対する周到に計算された攻撃だ」と厳しく非難した。

 ヒンデンブルグは2年間かけて調査にあたってきたが、このタイミングでの公表は空売りをかけて公募増資に打撃を与える狙いがあったとささやかれている。すなわち、中核会社であるアダニ・エンタープライゼズが2,000億ルピー(約240億ドル)を公募増資する計画であり、アブダビ政府の投資機関やインドの大富豪ミッタル氏らが名を連ねていた。

 しかし、同社株の猛烈な売り込みで株価はムンバイ証券取引所で2,128ルピーと仮条件の下限(3,112ルピー)を大きく割りこんだ。増資に応じた投資家が含み損を抱える事態となり、2月1日には公募増資を撤回、すでに払い込みをした投資家には資金の払い戻しに応じる、と声明を出した。ヒンデンブルグの目論見は成功したようだ。

 アダニ・グループはインド内外で港湾、空港、高速道路さらには石炭や再生エネルギーなどのインフラ投資に莫大な投資を行ってきてた。そして急速にその業容を拡大してきたインド最大の財閥のひとつである。しかし、モディ政権との距離の近さがビジネスの急拡大につながってきたとの指摘も受けてきた。

 アダニ氏の資産やアダニ財閥のビジネスの将来もさることながら、インドにおけるコーポレートガバナンスが問われそうだ。またインドでは、大富豪に率いられた少数の財閥がインドのインフラ基盤を整備し、海外の投資活動を広げていく、というビジネスモデル自体が危ぶまれるかもしれない。ちなみにインド株式に対する海外の売り越し額は年初来1月27日までで1,700億ルピーに達して2022年6月以来の売り越し超となっている

 今回の事件は、世界の新興国ファンドで最も重視されている国であるインドの評判を傷つけることになりかねない。ちなみに新興国ファンドのMSCIはアダニ・グループの株式が彼らの指数に組み込まれるのが適切かどうかを判断するため、「緊密に状況を注視する」と声明を出した。

 政府も規制当局も今のところ音なしの構えである。もし、ヒンデンブルグの調査が正しければ、モディ首相本人と政権にとって大きな打撃となろう。つまり、モディ氏はアダニ氏と長年盟友関係にある、とみられている。

 またモディ・グループに大きな投資を行ってきた国営銀行のSBI(インドステート銀行)や国営保険会社であるLIC(ライフインシュアランスコーポレーション)などとも密接な関係を築いてきた。このためSBIもLICも株価の下落に直面した。

 アダニ財閥の事業拡大はモディ首相の誕生と軌を一にする。アダニ氏、モディ氏ともにグラジャード州の出身である。2001年にモディ氏がグラジャード州で首相となった前後からアダニ氏はインドのビジネス界でモディの最大の支援者となってきた。

 アダニ氏が同州を根拠地にビジネス帝国を作り上げ、同州の経済発展に貢献した。同州の好調な経済は、「モディ州首相の辣腕によるもの」と称えられて、モディ氏を2014年にインドの首相に押し上げる原動力となった。

 こうしてモディ氏との長年の親交を通じてアダニ氏は政権に対する影響力を強めていった。アダニ氏はモディ首相の政策アジェンダに対する熱烈な支持を続けていった。実際、アダニ氏は数十億ドルの規模で、インド政府にとって政策の優先順位が高い分野に資金を投入していった。

 例えば、電力需要の急増に合わせた石炭掘削、脱炭素社会に対する野心的な目標を掲げたグリーン水素プロジェクトの開発などがその好例だ。

 モディ政権の政策と歩調を合わせたビジネス戦略はアダニ氏の資産を急激に増大させることになった。アダニ氏の純資産は2014年の70億ドルからヒンデンブルグの調査レポートが出る直前には1,000億ドルも増えていった。

 彼の率いるモディ財閥の急成長は、ヒンデンブルグのレポートが出る前からインドの内外で詮索を受けるようになった。モディ首相との距離の近さが報われて、ライバルを割り込ませないように規制当局がさじ加減をしているといった批判を被るようになった。

 2017年の政府監査結果がリークされたときにはアダニ・パワー社が石油火力発電において割高な電力料金を設定するのに当局から厚遇を受けていた、と指摘されていた。

 アダニ氏とモディ首相との関係は、インドの野党にとってクローニズムの格好な証左として攻撃に晒されてもきた。野党指導者のラウル・ガンディ氏(父がラジーブ・ガンディ元首相、祖母はインディラ・ガンディ元首相)は「インドの港湾、空港、送電事業、鉱山開発、クリーンエネルギー事業に至るまで、インド中で政治支援を受けたアダニ・グループが席巻している」と議会で攻撃した。

 これに対してアダニ氏は常に公正な競争を経てビジネスを稼得しており、政治家の支援等を受けたことは一切ないとモディ政権の支援を否定してきた。

 いずれにしても、「アダニショック」は個別企業の問題にとどまらずインド企業全体のコーポレートガバナンスに対する疑念を広げるとともに、インド社会の組織的な硬直性を示すことにもなりかねない。今年、インドは中国を抜いて世界一の人口を有する国となり、かつG20の議長国にもなる。

 IMFの見通しでは今年の実質成長率は+6.1%と主要国の中で最高水準となり、中国(同+5.1%)とともに世界経済の成長を牽引していく役割を果たすものと期待されている。国際金融市場では今回の事件がそのインドで近年、最大の経済・政治的な混乱を引き起こしかねないのではないか、と固唾を飲んで見守っている。
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