中国不動産大手の恒大集団に対する経営不安の広がりで香港、欧州市場での株価全般の下落に続き、米国でもNYダウが一時970ドルを越える急落を示した。いわゆる恐怖指数(Vix Index)も25を超えて今年5月以来の悪化となっている。
ゴールドマンサックスやシティコープなど銀行株が軒並み下落した。恒大集団は23日に巨額の債券利払い(129百万ドル)を控えて資金繰りへの懸念が急速に高まっていた。フィッチなど格付け会社もウォーニングメッセージを発出している。
香港市場では、最初に恒大集団に対する経営悪化が大きく報じられて同社の株価は急落を続けた。9月20日の終値ではほぼ2010年5月以来ほぼ20年ぶりの安値を付けたほか、ハンセン指数自身も24,099と2020年10月以来の安値となった。
恒大集団の総債務は3,000億ドル(33兆円)以上と不動産会社としては世界一の規模とみられる。9月23日には129百万ドルに達する巨額のドル建て社債の支払期日を迎える。
9月20日の世界の株式市場における急落のきっかけとなった恒大集団の経営悪化であるが、もともとは同社のみならず、拡大一途で債務が急増してきた中国不動産業界全般に対する信用不安が背景にある。さらに不動産業界から融資先の金融機関のほか、鉄筋、銅、アルミなど住宅建材を収める資源関連企業会社にまで大きな波及が懸念されている。
銀行部門ではHSBCやスタンダードチャータード銀行など香港、中国大陸での営業ウエイトの高い銀行の株価が大幅に下落した。また中国のマンション、住宅建設メーカーにおける銅の使用量は中国全体の2割を占めているだけにLME(London Metal Exchange)でも同価格は3%下落したほか、鉄鉱石価格もここ1週間で2割ほど下落してトンあたり100ドルを割り込んだ。
一方で中国当局は住宅価格の急騰に怒る一般国民の抗議の声を背景に住宅販売価格の引き下げを指導してきており、これも不動産会社の利幅の圧縮も資金繰り悪化につながっている。
投資ファンドを通じて一般の国民にも高利回りの投信販売を通じて資金調達をしてきただけに、上海の同社本社前には8万人に達する債権者のデモさえ見られている。債権者にはこれまでも利払い猶予の代わりにマンション販売価格の最大28%引き下げなどの優遇措置をオファーしてきたが、それを拒否する債権者も多い。
同社は今年中に140億ドルのドル建て債券にかかる8億ドルを越える利払いが到来する。最終的に生殺与奪の権を握る中国当局が恒大集団に対する経営不安をどう扱うのかが鍵となる。
また同社は現時点でも中国223都市で778のプロジェクトを手掛けているので経営破たんした場合の影響は少なくない。そもそも不動産業は中国のGDPの3割近くを占め、経済成長のリーディングセクターの役割を果たしてきた。
中国当局は、その気になれば、金融界(そのほとんどが政府の意のままに動く国営銀行)に救済融資を指示することができる。国際金融市場では半ば中国政府に対する支援を期待していると言えよう。
中国当局はこれまで国営企業などに対しては「大きすぎて潰せない」(too big to fail)として合併・吸収などの手段を通じて救済してきた。しかし、一方で最近のテック企業に対する圧迫と社会主義への回帰をみると、不動産で財を成してきたオーナー一族に対する国民の反発もあって過去の事例はそのまま適用しないのではないか、との不安の声も広がっている。