楽天銀行(株)が4月21日、東京証券取引所プライム市場へ新規上場した。初値は1856円と、公開価格(1400円)を33%上回った。上場に伴い親会社の楽天グループは一部株式を売却し717億円を調達した。楽天グループは携帯事業への投資負担が嵩み、財務内容は悪化している。楽天銀行の上場は福音となるが、干天に慈雨というには力不足だ。
楽天グループの直近、22年12月期決算は、過去最大となる3728億円の純損失となった。理由は明瞭だ。楽天モバイルが巨額な設備投資をしている影響で、膨大な赤字が累積しているためだ。
楽天グループの22年12月期のセグメント損益は、楽天市場などのインターネットサービスは782億円の利益を上げ、楽天カードなどフィンテック事業でも987億円もの利益を稼ぎ出している。
にもかかわらず携帯事業「楽天モバイル」の赤字4928億円が、全ての利益を吹き飛ばした格好だ。グループの総売上高は1兆9278億円と過去最高にもかかわらず4期連続の連結赤字、しかも過去最大の赤字計上となった。
楽天がNTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクに次ぐ「第四の携帯電話会社」として、鳴り物入りで携帯市場に参入したのは20年春。大手3社が9割ものシェアを握り、超過利潤に胡坐をかく携帯市場にくさびを打つことが狙いだった。
通信とコンテンツの融合にも進出し、人気サッカークラブのFCバルセロナとパートナー契約を結ぶなど、スポーツの動画配信に力を入れた。しかし、大手3社の壁は厚く、業績は暗転した。
過大な投資負担は当初から意識されていたが、三木谷氏は、主力のEC「楽天市場」はじめクレジットカード、楽天銀行、楽天証券など70ものサービスを提供する商取引と金融、さらにスマホが「三位一体」となった独自の「楽天経済圏」を構築できれば跳ね返せると踏んでいた。だが、肝心な携帯事業は簡単なものではなかった。
最大の誤算は基地局の整備が遅れ通信環境が整わなかったことだ。基地局などの設備投資は累計で1兆円を超え、23年12月期も3000億円程度が見込まれる。基地局整備の遅れから「楽天携帯はつながりにくい」という負のイメージがまとわりついてしまい拡販のネックとなった。
自社回線がつながりにくい場所ではKDDIに回線を借りる「ローミング」(相互乗り入れ)で賄ったが、自前の基地局数が5万を超え、人口カバー率が98%になった現在も、負のイメージは完全には払しょくされていない。
三木谷氏は、今年1月末のイベント「楽天新春カンファレンス」で、「楽天市場」の出店者を前に、「今年のテーマは、モバイル、モバイル、モバイル、モバイル」と力説し、協力を仰いだ。楽天市場の約5万6000店舗で、1店舗あたり5人が楽天モバイルと契約すれば「25万人の強力なサポーターが作れる」と強調。
「皆さんも、携帯を楽天に変えていただきたい。法人契約も楽天モバイルに変えていただきたい」と懇願した。さらに、携帯販促にはグループ社員も総動員された。楽天モバイルの新規契約を1人当たり5回線獲得する「紹介プログラム」と呼ばれる実質的な「ノルマ」の設定だ。
三木谷氏がこれほど危機感を強める背景には、携帯事業の投資負担で膨れ上がる負債の重圧がある。「直近4期の連結業績はモバイル事業関連での影響等で損失計上が続き、内部留保は弱体化している。期末時点での自己資本は8,137億3,000万円、自己資本比率3.98%と財務内容は脆弱」(大手信用情報機関)と指摘される。
とりわけ社債の償還圧力は格付けの低下も伴い強烈だ。社債の発行残高は約1兆2000億円に達し、償還予定額は23年に780億円、24年に3000億円、25年は4000億円超と高原状態が続く。
格付けは「ダブルB」(S&Pグローバル)まで低下しており、今年1月に発行した総額4億5,000万ドルのドル建て債は、割引分を加味した最終的な利回りは11.76%と抜きんでて高かった。
一方、グループの現預金は22年12月末で4兆6944億円保有しているが、単体の現預金は900億円程度で、グループが自由に使える金額は2000~3000億円程度と見られている。それだけ社債の借換え発行が重要となるが、格付け低下でコストアップは避けられない。
期待されるのは楽天モバイルが4月19日に、地下やビル内でもつながりやすい周波数帯の「プラチナバンド」について総務省に割り当てを希望したことだ。総務省の有識者会議は昨秋、地下やビル内でもつながりやすい周波数帯の「プラチナバンド」の一部を、大手3社から楽天モバイルに5年程度で分けるよう求めており、移行費用も3社が負担するよう要請している。だが、3社の反発は必至だ。
また、これまでKDDIに依存していた「ローミング」の利用料金の負担が、自社基地局整備に伴い軽減されることも収益のプラス要因となる。だが、携帯電話市場は飽和状態。シニア世代にもスマートフォンは行き渡っており、新規需要を開拓するのは容易なことではない。
市場では「楽天銀行に続き、楽天証券の上場も視野に入る」とされるが、楽天グループは当面、いばらの道が続く。
楽天銀行上場でも解決しない 楽天Gいばらの道 |
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【経済診断】携帯事業で大赤字 社債返済負担も急増へ
公開日:
(ビジネス)
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森岡 英樹(経済ジャーナリスト)
1957年生まれ、 早稲田大学卒業後、 経済記者となる。
1997年米国 コンサルタント会社「グリニッチ・ アソシエイト」のシニア・リサーチ ・アソシエイト。並びに「パラゲイト ・コンサルタンツ」シニア・アドバイザーを兼任。2004年 4月 ジャーナリストとして独立。一方で、「財団法人 埼玉県芸術 文化振興財団」(埼玉県100%出資)の常務理事として財団改革に取り組み、新芸術監督として蜷川幸雄氏を招聘した。 |
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