公明党の強い要請で、安倍政権は2017年4月に消費税を10%に引き上げると同時に、軽減税率制度を導入する方針です。一定の生活必需品の消費税率を標準の10%より低く優遇するもので、与党税制調査会では、食品を中心に対象品目の選定が行われ始めました。軽減税率をすでに導入している海外の事例をみてみましょう。
すでに軽減税率が導入されている欧州でも、対象品目に関する明確な線引きはありません。各国の歴史的、経済的背景を考慮して判断している状況です。ただ、アルコール飲料、外食等のサービスについては、ほぼ軽減税率の対象外としている点では共通しています。
フランスを例に見てみましょう。フランス標準税率は、19.6%。日本より割高ですが、軽減税率は10%、5.5%、2.1%の3種類が設定されています。2.1%の対象品目は、医薬品(社会保障制度が適応されるもの)、新聞、雑誌。5.5%の対象となるものは、食料品、書籍。10%のものは、旅客輸送、肥料、宿泊施設の利用、外食サービス等になっています。
対象外となるものは、アルコール飲料、砂糖菓子、キャビア、チョコレート(カカオ含有量の高い一定の製品)のぜいたく品には、標準の税率が課されています。(2015年1月 財務省資料による)
フランスにおいて、世界三大珍味の一つであるキャビアは、ぜいたく品として標準税率が課されますが、ほかの三大珍味、フォアグラ、トリュフはフランス国内で採集されていることなどもあり、国内業者を守るため5.5%の軽減税率の対商品となっています。
フランスでは砂糖菓子は、ぜいたく品とされていますが、イギリスでは、ケーキ・ビスケットは生活必需品とみなされ、消費税がかかりません。このように、国によって線引きはまちまちです。
食料品のなかでも、その提供のしかたによって課される税率が変わってくることがあります。ドイツでは、ハンバーガーなどのファストフードに関して、店内での飲食(イートイン)は標準税率の19%、持ち帰り(テイクアウト)の品は軽減税率7%の対象としています。
しかし、ドイツのマクドナルドは、イートインとテイクアウトで適応税率に差があるのにも関わらず、同じ値段で販売しているそうです。これは、「テイクアウトといって購入し、その場で食べる」という購入者が居た場合の税務局とのトラブルを避けるための店側の配慮です(DIAMOND online 2014年5月14日)。
このような煩わしさを避けるため、カナダでは「品物の量」を基準としています。ドーナツなどのお菓子について、「5個以下」は、標準税率5%。「6個以上」は軽減税率0%としているのです。また、イギリスは、フィッシュアンドチップスやハンバーガーといった、温かい食料品はテイクアウトであっても、標準税率20%が課されます。
一方、デリカッセンといった出来合いのお惣菜は、軽減税率0%となっています。温かさの基準としては「気温より高く温められていたかどうか」で、少しでも加熱すれば標準税率がかかります。日本で言えば、お弁当を電子レンジで温めたら、軽減税率の対象にならないということでしょうか。
軽減税率を巡り、もう一つ重要な制度なのが「インボイス制度」です。インボイスとは、事業者同士が取引を行う際、商品ごとの税率や税額を一覧表に記した明細書のことをさします。これは、商品の販売業者が発行します。欧州の多くの国では、軽減税率が導入されており、商品の税率が異なるため、脱税の抑止のために導入されているのです。
インボイスには、税率や税額のほか、事業者番号や請求書番号も記載されています。どの商品にどれだけの税率がかかっているかに加えて、いつ、どこの事業者と取引したかが分かり、不正が見抜きやすいとされます。
しかし、インボイス制は、手続きが煩雑なため、日本の中小企業は導入に反発しています。これに対し、軽減税率を推進している公明党の山口代表は、インボイス制の不要な、「簡易式」軽減税率制度の導入を提案しています。