日本電産は20日、2022年度第一四半期(4-6月期)決算を発表、その後ウエッブで決算説明の会見を開いた。創業者の永守重信代表取締役会長と後継者として日産自動車からスカウトした関社長兼COO(最高執行責任者)氏(4月にCEOからCOOに降格)がそろって出席した。
注目は二人の関係。質疑応答で関氏が答えると、必ず永守氏がかぶせる様に補足説明し、自分がトップであることを誇示する姿勢が目立った。
だが、会見でより鮮明だったのは、電気自動車のエンジンにあたる「トラクションモーター」の納入先を広げ、一気にEV部品での世界トップを目指すという永守会長の成長戦略へのこだわりだった。永守氏は現在2兆円強の売り上げを2030年までに10兆円にする計画で、この売り上げ急拡大の原動力に据えたいのが、このEVの「エンジン」にあたるモーターだ。
トラクションモーターは、2019年に日電産が商品化し、自動車メーカーに売り込みを進めてきた。馬力などで高級品から大衆車用まで商品ラインナップを広げてきた。中国自動車大手の広州汽車、吉利汽車に納入実績があり、累積で40万台以上を販売している。
納入先はすでに中国でさらに2社、欧州でも複数社と契約目前まで来ている模様。「あっという間に500万台ぐらいの出荷の時代がくる」と市場の急拡大を見込んでいる。中国で50万円を切るEVがバカ売れしているように低価格が爆発的な市場を作り出すとみているようだ。
だが、黒字化がまだなうえ、一気に納入先を増やさないとトップにはなれないとのすさまじい危機感を永守会長はほとばしらせていた。
自動車業界に広い人脈を持つ関氏をスカウトしたのも、トラクションモーターの納入先を拡大にうってつけと考えたからなのだろう。
たが、取引先拡大で関氏はが日産時代の習性から、部下に任せる手法をとったといわれ、それが率先垂範がモットーの永守氏の目には生ぬるいと映ったようだ。会見の中でも「リーダーが変われば会社は変わる」と繰り返し、それが関氏へのあてこすりであることを隠さなかった。
また、トラクションモーターは「需要が爆発するのだから、供給力が追い付かなくなれば顧客を取り逃がす」と永守会長は考えている様子。現在は中国の浙江省と山東省大連市の工場で大量生産体制を作っているが、欧州などでの工場立ち上げが思ったように進んでいないことなど、供給力が十分でないことに永守氏は怒りを隠せないでいた。この点でも、関氏への不満がくすぶっているようだ。
会見では恥をかかされ続けた関氏だが、ジッと耐えているようにみえた。後継者問題に関し永守氏は、逃げなければ次期CEOは関氏と形式的には関氏を見捨ててはいないとの姿勢も6月の株主総会後の会見で示していた。
だが、20日の会見では生え抜き組の部門トップへの配置を終え、たちまち成果が上がっていると何度も語った。永守氏は2年をめどに新体制に移行するとすでに表明しており、実績があがらなければCEOには生え抜き組から登用すると関氏を「脅している」ようにしか見えなかった。
関氏はどんなにあてこすられても、感情的になる場面はなかった。むしろ、200キロ出せる車を求める欧州と運通勤・買い物用だから100キロを超え運転が可能なバッテリーは必要ない中国の大衆の考える車では全く性能が異なり、両方に対応できるモーター作りが求められていると分析していた。
日電産が業績を上げられるかも、関氏が再びCEOに戻れるかどうかも、日電産のトラクションモーターがどこまで伸びるかにかかっている。
日本電産 電気自動車の「エンジン」に強烈シフト |
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【編集長コラム】永守会長、EVエンジンへの取り組みで関氏に不満か
公開日:
(ビジネス)
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土屋 直也(ニュースソクラ編集長)
日本経済新聞社でロンドンとニューヨークの特派員を経験。NY時代には2001年9月11日の同時多発テロに遭遇。日本では主にバブル後の金融システム問題を日銀クラブキャップとして担当。バブル崩壊の起点となった1991年の損失補てん問題で「損失補てん先リスト」をスクープし、新聞協会賞を受賞。2014年、日本経済新聞社を退職、ニュースソクラを創設
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