金融庁は、かなり早い段階から大規模システム障害への経営陣の責任は、厳しい減給処分にとどめることで十分とみずほサイドに伝えていた。減給処分の内容も、持ち株会社のみずほフィナンシャルグループ社長を減給6ヶ月とし、子会社みずほ銀行の藤原頭取は減給4ヶ月とするよう求めたのも金融庁だったとされる。坂井社長の「責任」を重く見ていることを伝えることで、藤原頭取を退任させる人事を思いとどまるよう伝えようとしていた。
だが、みずほサイドは金融庁の考えを読み取れず、藤原退任案で走ってしまう。坂井社長の意向を忖度した金融庁との窓口役が金融庁のサインに気づかぬ報告を続けたとされるが、坂井社長が意図的に無視したと受け取っているみずほ関係者も少なくない。

坂井FG社長(左)と藤原頭取(撮影ソクラ)
なぜ、金融庁はそこまで藤原頭取の留任にこだわったのか。みずほ内部から聞こえてくる坂井社長への求心力の弱さ、それと反比例するように高まった藤原頭取への信任の厚さを重視したからのようだ。確かに、官僚的な坂井氏に比べ、時に情熱的になる藤原氏のほうが「上司」としての魅力は高いだろう。
みずほは、3つのメガバンクのなかで、収益力でかなり見劣りし、脱落するのではないかとの危機感が金融界に根強い。それを金融庁も強く警戒してきた。藤原頭取が退任した場合、後任頭取は坂井社長のイエスマンとなっていく可能性が高く、「坂井独裁」体制が確立していくことになる。
みずほは部門ごとに分権するカンパニー制度を収益力の推進役に据えようとしているが、坂井独裁体制が強まれば、その効果はかえって弱まる可能性もあった。
15日の会見で坂井社長は、経営陣の大規模障害への責任は減給処分で終わりとしつつ、必要があればいずれ人事をすることもあると説明した。藤原退任は見送ったが、暫定的な措置だと言っているようにも聞こえるが、金融庁の介入とみずほ内部の空気を読めば「坂井社長・藤原頭取体制」は長期化する。みずほ銀行自体は、藤原頭取を中心に回っていくことになるだろう。
気になるのは、藤原続投論がみずほ内に根強くあったとはいえ、最後は金融庁の意向で決まったことが今後どのように作用するかだ。みずほはかつて法人を担当するみずほコーポレート銀行と個人部門のみずほ銀行に分かれ、持ち株会社の社長と3トップ体制で運営し失敗した。2つの銀行を合併させ、トップの一本化を推し進めた際にも、実は金融庁が強く働きかけた。その際には人事への微妙な介入もあった。金融庁の介入人事はみずほの再生という視点でみれば、失敗してきたといえなくもない。
藤原頭取の留任によって坂井社長独裁の幣を回避したバランス人事が、みずほ内の求心力を高めるのか、それとも2頭体制となって権力争いの構図となってしまうのか。坂井、藤原両氏の立ち居、振る舞いが、みずほの浮沈を決めるだろう。