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原油急落なら、アラブ諸国で民主化の嵐も

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【藤和彦の眼】イランとリビア供給量拡大に、原油市場が動揺

公開日: 2020/09/29 (マーケット, ビジネス)

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藤 和彦 (経済産業研究所上席研究員)

 米WTI原油先物市場ではこのところ頭打ち感が強まっている。

 8月末に需給の引き締まりが意識されて1バレル=43ドルまで上昇したが、その後同40ドル前後で足踏みしている。

 まず需要サイドの動向だが、欧米地域で新型コロナウイルスの感染が再拡大し、原油の需要回復が遅れるとの観測が広がっている。原油の最大需要国である米国では、消費の軸がガソリンから暖房油に移りつつあるが、暖冬予想が出ており、盛り上がりに欠けている。

 世界最大の原油輸入国となった中国も、貯蔵施設の制約から今後原油輸入量は減少するとの見方が強い(9月22日付OILPRICE)。

 世界第3位の原油需要国となったインドの8月の原油処理量が、前年比26%減の日量382万バレルとなるなど軟調に推移している。インドは近年「第2の中国」との期待が高まっていたが、英石油大手BPは「インドの原油需要は2025年にピークを迎えるかもしれない」との弱気の見通しを示している(9月16日付OILPRICE)。

 供給サイドに目を転じると、OPECとロシアなどの大産油国(OPECプラス)は日量770万バレルの協調減産を実施しているが、減産を主導しているサウジアラビアはアブドラアジズ・エネルギー相が9月17日「世界の原油市場の投機筋に地獄のような苦しみを味合わせる」と発言したように、一向に上昇しない原油価格に苛立ちを示すようになってきている。

 協調減産を公約通り実施していないイラクやアラブ首長国連邦(UAE)に対して圧力を強めるアブドラアジズ氏は9月18日、「10月にOPECの臨時会合を開く可能性がある」と述べたが、OPECプラスが追加減産に踏み切るかどうかは不透明な情勢である。

 OPECプラスにとっての頭痛の種だった米国の原油生産量は、ピーク時(日量1310万バレル)から同200万バレル以上減少した状態が続いている。

 今後の原油生産の動向を示す石油掘削装置(リグ)稼働数は180基前後と低迷したままであり、当面は現在の生産量を維持するだけで精一杯のようである。今年初めに日量約820万バレルだったシェールオイルの生産量は現在約760万バレルに減少しており、米石油大手コノコフィリップス幹部は9月24日、「2022年のシェールオイルの生産量は日量400万バレルに減少する公算が大きい」と述べた。

 米国の石油企業トップの3分の2が「米国の原油生産はピークを過ぎた」と考えている(9月24日付ロイター)ように、「シェールブームは今や昔」である。

 シェールオイルの「生産減」に加えて、ノルウェーで9月末から石油産業労働者のストで日量90万バレルの原油生産に影響が出るとの情報があるが、市場関係者が注目しているのはもっぱら「生産増」の情報である。

 最初の「材料」はリビアの原油輸出再開である。

 2019年のリビアの原油生産量は日量約100万バレルだったが、内戦の激化により足元では同10万バレルにまで落ち込んでいた。ロシアの仲介により暫定政府とリビア国民軍は9月18日、原油販売代金の配分問題は残っているものの、原油輸出の再開で合意した。9月23日にはリビア東部の原油輸出港に100万バレルの原油を運ぶことができるタンカーが到着しており、リビアの原油生産量は今後大幅に増加することが見込まれている。

 次の「材料」はイランの原油輸出拡大である。

 2018年5月に米国が制裁を開始する以前のイランの原油輸出量は日量250万バレル超だったが、その後同20万バレルにまで減少したとされていた。しかしタンカーの移動をウオッチする会社の情報によれば、イランの9月の原油輸出量は最大150万バレルにまで回復した。最大の輸出先は中国のようである(9月25日付OILPRICE)。

 イランとリビアによる世界の原油市場への供給量拡大という「材料」により、年末に向けて原油価格には大きな下押し圧力が生じているのである。

 プーチン大統領は1バレル=46ドル以上の原油価格を望んでいるが、ロシア中央銀行は「今後原油価格は1バレル=25ドルに下落する可能性がある」との予測を示している(9月10日付OILPRICE)。

 ロシアは低油価でも耐えられるとされているが、湾岸産油国は厳しいだろう。

 米格付会社ムーデイーズは9月22日、財政均衡原油価格が1バレル=約60ドルとされるクウエートの信用格付けを初めて引き下げた。議会との軋轢による政府の流動性リスクの高まりを理由に挙げている。

 サウジアラビアの財政均衡原油価格は1バレル=約80ドルである。コロナ禍のせいでメッカ巡礼の参加者を大幅に制限したことが財政を大きく圧迫していることから、補助金のさらなる削減によるガソリン価格の実質的な値上げが検討されている。脱石油経済化を目指しているものの、海外からの投資が3年連続で減少しており、イスラエル・マネーが喉から手が出るほどほしいだろうが、メッカとメデイナという2大聖地の守護者であるサウジアラビアの立場がそれを許さない。UAEやバーレーンのようにはいかないのである。

 建国以来の危機に陥りつつある祖国の現状に影響されたのだろうか、海外亡命中のサウジアラビア反体制派グループは民主的な政治集団を発足させた(9月24日付ロイター)。エジプトやレバノンなどで政府への抗議活動が盛んになっているが、原油価格が今後急落するようなことがあれば、サウジアラビアを始め湾岸産油国で「アラブの春」が起こる可能性は排除できないだろう。
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藤 和彦(経済産業研究所上席研究員)
1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣参事官)。2016年から現職。著書に『原油暴落で変わる世界』『石油を読む』ほか多数。
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