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日経「成長の礎築き損ねた」、読売も「格差拡大」指摘

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【論調比較・アベノミクス】成長戦略に失敗で各紙は一致

公開日: 2020/09/04 (政治, ビジネス)

Reuters Reuters

岸井 雄作 (ジャーナリスト)

 安倍晋三首相の病気辞任発表(8月29日)に伴う後継首相選びは、安倍政治の継承を掲げる菅義偉官房長官が圧倒的な優位の中、岸田文雄政調会長、石破茂元幹事長が論戦を挑む構図になっている。菅氏は安倍政権の金看板だった経済政策「アベノミクス」の継続を表明、岸田氏、石破氏は修正の必要を訴えている。

 新型コロナウイルスの感染拡大による急失速を割り引いても、アベノミクスの限界や負の側面が顕在化しており、「継続」であれ「修正」であれ、新政権は実質的に政策の見直しを迫られる。

 アベノミクスは①日銀による異次元金融緩和、②巨額の財政出動、③規制改革などの成長戦略――を「3本の矢」として経済を立て直す戦略だった。「経済政策を最優先で取り組んできた」(菅官房長官)というように、経済状況の好転が高い支持率の基盤であり、集団的自衛権や安保法制など国論を二分する政策を安倍政権が押し通す原動力にもなった。

 経済のメカニズム、成功や失敗の因果関係は説明できるようで、必ずしもしきれないし、立場によって評価も変わる。アベノミクスについていえば、その7年半の間、金融緩和と財政が円安をもたらした。

 その中で景気が好転したが、世界の景気好転という好条件に支えられた面も強く、成長率は2013~19年度平均で実質0.9%、名目1.6%と、目標とした同2%、3%を下回り、国民にも実感が乏しいと言われる。

 金融緩和のカネ余りに加え、海外マネーも集めて株価が大きく上昇したが、年金資金での株購入拡大、日銀による株価指数連動上場投資信託(ETF)購入など公金による株買い支えとの批判が付きまとう。

 輸出企業を中心に企業収益が改善、失業率は低下し、「官製春闘」といわれる政府による経営側への賃上げ圧力で2020年まで7年連続2%以上の賃上げを実現した。他方で、就業者数は増えたものの、半分は春闘の賃上げの恩恵が及びにくい非正規雇用であり、実質賃金はほぼ一貫して悪化し続け、格差が拡大したと指摘される。

 訪日外国人を増やしたのも景気にプラスになった。ただ、新型コロナで訪日観光はほぼ消滅状態で、今後の見通しは不透明だ。

 さらに、米トランプ政権が離脱し、空中分解しかけた環太平洋経済連携協定(TPP)を米国以外の11カ国での発効を主導するなど自由貿易に貢献した点は評される一方、国内農業への打撃との批判も根強い。

 消費税を在任中に2回引き上げたが、財政再建目標は先送りを続け、財政赤字は度重なる企業減税もあって膨らみ、新型コロナ対策を除いても、国と地方の借金は累計1100兆円超(2020年3月末)と国内総生産(GDP)の2倍に達する。金融緩和として日銀が買い上げた国債は発行残高の半分に迫り、実質的に財政法が禁じる国債引き受けだと批判され、しかも、そこまでしても日銀が掲げる物価上昇率2%には届いていない。

 大手紙は退陣表明後、アベノミクスを様々に論じている。安倍首相会見翌日の8月29日には各紙、安倍政権を総括する中でそろって取り上げたほか、日経が「途上の経済政策」(9月1日~)、読売が「検証アベノミクス」(8月31日~)の「ワッペン企画」(ナンバーは振らず「ワッペン」を付けて随時掲載)と、アベノミクスに絞った連載をするほか、毎日は「『最長』の終わり 残された課題」(8月30日~)、朝日「考 最長政権」(8月30日~)の連載の中でアベノミクスを取り上げている。

 偶然だろうが、安倍政権支持の論陣を張ってきた読売、産経の2紙は9月3日までに社説でアベノミクスを直接取り上げていない。

 このうち産経は、一般記事でもアベノミクス関連が極めて少ないが、辞任表明を受けた8月29日紙面で「アベノミクス 企業に恩恵」「TPPなど通商政策でも成果」(経済面)と持ち上げ、9月1日紙面でも株価の反発の記事で「アベノミクス継続期待」との見出しで〈菅氏が後継になれば……アベノミクス路線を踏襲するとの思惑が広がり、買いが先行した〉などと解説し、好意的な論調が際立っている。

 読売は、一般記事では多く取り上げているが、結構辛口だ。8月29日から編集幹部が書く論文「総括 安倍政権」(1~2面、初日は橋本五郎特別編集委員)で、30日に矢田俊彦編集局次長がアベノミクスを論じた。

 〈安倍首相の強い決意で始まった政策は、様々な批判を一蹴し、株価を2倍以上に引き上げ、失業率は2%台まで下がった〉などと成果を強調しつつ、〈伸び悩む賃金や格差拡大もあり、景気回復の恩恵を感じられないとも言われ続けた〉と、負の側面に言及。

 国債発行残高の累増と出口を描けない日銀の金融緩和にも警鐘を鳴らし、さらに、〈「官邸一強」は、時間がたつにつれ、国民の声が届きにくくなっていなかっただろうか〉などと組織運営も問題にする。安倍政治へのかなり本質的な批判といえる。

 読売は経済面のワッペン企画「検証アベノミクス」でも、TPPなどの通商外交、インバウンド拡大、地価上昇などの一方で「潜在成長率 低迷続く」(8月31日)、「成長頼みの財政政策」(9月1日)、「雇用改善 非正規頼み」(2日)など、新型コロナを受けての対応を含めて課題を論じ、「問題点指摘型」の連載になっている。

 朝日、毎日、東京、日経の4紙の社説は、濃淡はあるが、概して厳しい書きぶりだ。

 日経(9月3日)が〈2008年のリーマン・ショックや11年の東日本大震災で深い傷を負った日本経済の復元に一定の成果をあげた〉とひとまず評価するほか、一貫して安倍政権に批判的な朝日(8月30日)も〈企業収益の好調と就業者数の拡大が最近まで続いたことは評価すべきだ〉、東京(9月2日)は訪日客拡大政策を〈中国を中心とした観光客の激増と大きな観光収入をもたらした。一時的とはいえ一定の経済効果を上げた点は評価すべきだろう〉など、一定の評価、部分的な評価はする。

 だが、〈政権発足直後こそ一定の成果を上げた〉(朝日)、〈滑り出しは上々だった。2012年末の第2次安倍政権発足と同時に景気回復が始まり、1万円程度だった日経平均株価は5カ月で1万5000円台に急上昇した〉(毎日8月31日)など、当初の華々しさが、やがて尻すぼみになっていったという認識は、日経も含めて共通。借金頼みの財政運営で国債が積みあがり、日銀が実質的にその穴埋めをしていることに〈巨額の借金で株高演出〉(毎日)など、批判が並ぶ。

 そして、最大の問題は3本の矢のうちの「成長戦略」だ。

 日経は社説の見出しを「成長の礎築き損ねた」と謳い、〈アベノミクスのカギを握るのは、民需を喚起する成長戦略のはずだった。にもかかわらず技術革新などを促す十分な施策を講じられず、潜在成長率の底上げにつながらない痛み止めの金融・財政政策に頼りすぎた点に問題がある〉と、成果が上がらなかったことを厳しく批判。他紙を含め、それぞれ問題点を指摘する。

 〈「いかなる既得権益も私のドリルから無傷ではいられない」と豪語しながら、医療や教育などの分野で多くの岩盤規制を温存したのは否めない。……「働き方改革」や「一億総活躍」といった問題意識は正しくても、本丸に切り込めないのでは意味がなかろう。……企業統治の改革も道半ばに終わった。……何よりも官民のデジタル化を推進する努力が決定的に足りなかった〉(日経)

 〈首相は選挙のたびに成長戦略と称して「地方創生」「1億総活躍社会」「人生100年時代」などと耳目を引く看板を掲げた。本来なら、いずれも政権が全力を挙げて取り組むべき重要なテーマである。しかし、首相は看板を頻繁に取り換えた末、どれも中途半端に終わらせてしまった〉(毎日)〈企業業績の回復を超えたビジョンがなければ、様々な「成長戦略」もスローガンの羅列に終わる〉(朝日)

 〈インバウンドと呼ばれた観光による効果はコロナ禍によってほぼ消失した。予測が難しかったとはいえ、極端に観光に寄り掛かった戦略のあり方には反省すべき点もあるのではないか。……成長が見込める分野をあぶり出し、そこに集中的に投資し税制上の優遇も行う。新政権は、そのための大胆で斬新な戦略づくりに発足後、直ちに取り組むべきだ〉(東京)

 自民党総裁選に名乗りを上げた3氏は、一通り会見などで経済政策の輪郭を語っている。安倍政権の継続を掲げる菅氏が「アベノミクスをしっかり責任をもって引き継ぎ、さらに進めた」「日銀との関係は総理と同じように進めたい」と述べるのは当然で、個別には自身が旗を振ってきた携帯電話料金引き下げのほか、地域金融機関の「数が多すぎる」として統合の必要などに言及した。

 政権を支えてきた岸田氏、安倍政権で地方創生相を務めた石破氏は、「アベノミクスには評価すべき点がたくさんある」(石破氏)と、基本的に評価しつつ、修正の必要も主張する。岸田氏は「中間層や中小企業、地方にも成長の果実が届くと言われ続けたが、なかなか実感できないという指摘がある」として、「格差の是正」「中間層を支え、社会全体の富の再配分を促す」と訴える。

 石破氏は「個人の所得が伸び悩んでいる。消費性向の高い人の所得を上げていくかを考える」と、格差解消を唱え、低所得者に負担が重い消費税について、代替財源の確保を前提に減税の検討にも言及している。

 大規模緩和について岸田、石破両氏は長期的に見直す必要を指摘し、石破氏は「官製相場があまりに強いと、日本の株式相場が健全か、問われると」と、日銀などの「買い支え」を疑問視する。

 新型コロナへの対応が当面、最大の課題だが、コロナ以前に限界が見えていたアベノミクスの見直しは避けて通れない。スガノミクスであれ、キシノミクスであれ、イシノミクスであれ、少子化対策や社会保障改革・財政改革など中長期的課題に向き合わなければならない。
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岸井 雄作(ジャーナリスト)
1955年、東京都生まれ。慶応大学経済学部卒。毎日新聞で主に経済畑を歩み、旧大蔵省・財務省、旧通商産業省・経済産業省、日銀、証券業界、流通業界、貿易業界、中小企業などを取材。水戸支局長、編集局編集委員などを経てフリー。東京農業大学応用生物科学部非常勤講師。元立教大学経済学部非常勤講師。著書に『ウエディングベルを鳴らしたい』(時事通信社)、『世紀末の日本 9つの大課題』(中経出版=共著)。
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