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読売・産経は早期開業期待し、静岡県知事の反対に苦言

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【論調比較・リニア開業遅れ】朝日・毎日はJR東海や国交省の対応批判

公開日: 2020/08/20 (政治, ビジネス)

CC BY-SA CC BY-SA /Hisagi

岸井 雄作 (ジャーナリスト)

 JR東海のリニア中央新幹線(品川~名古屋間)の開業遅れが必至の状況になっている。ルートがかかる静岡県が環境問題を理由に着工を拒み、打開の見通しがたたないのだ。政府が異例の3兆円の財政投融資を付ける「国家プロジェクト」で、国土交通省もJR東海を後押しするが、解決の糸口は見えないままだ。

 リニアは2015年に着工、2027年に品川~名古屋間を開業し、2037年には大阪まで延伸させ、最速で品川~名古屋を40分、東京~大阪間を67分で結ぶ計画。あくまでJR東海の「民間事業」だが、総額9兆円にのぼる巨大プロジェクトで、大阪延伸を8年前倒しするためとして、3兆円の超低利の財投資金も投じられる。無担保、年利0.8%、30年間元本返済据え置きという破格の好条件だ。特別親しいとされる安倍晋三首相と葛西敬之JR東海名誉会長の関係が、不明朗な印象を与えている面がある。

 リニア品川~名古屋間は東京、神奈川、山梨、静岡、長野、岐阜、愛知の7都県を通り、全長は285.6キロ。このうち、静岡県は3%に満たない8.9キロをかすめるように通るだけで、7都県の中で静岡にだけは駅も作られない。

 静岡工区は山梨から長野に至る全長25キロの南アルプストンネルの一部だが、問題は大井川の水だ。最大地下1400メートルを掘ることにより湧き出る水が静岡県外に流出し、下流域の県民約62万人が生活用水や農業、工業用水として使う川の流量が減る懸念があるとして、川を管理する静岡県の川勝平太知事が、河川法に基づく許可を出していない。

 JR東海の試算では湧水は毎秒最大2トンで、トンネル貫通後は別に掘る導水路を使って全量を戻すと表明しているが、工事期間中は一定量が流出することが判明し、静岡県は「一滴も譲らない」と態度を硬化。流域10市町の首長も県と歩調を合わせている。

 また、水を戻して中下流の水量は確保できたとしても、南アルプスの生態系への影響の懸念もある。JR東海は、トンネル掘削完了から20年後、地下水位の低下によって渇水期の上流の沢の流量が最大で7割程度減少するとの試算を示している。「南アルプスの希少な生物がいる環境をどう守るか」(難波喬司・静岡県副知事、7月16日) と、静岡県側は問題視している。

 このほかにも、静岡に限らず長野、山梨共通の問題として、アルプスの山中で、掘削に伴い出てくる土の処理はどうするのか、また甲斐十吾の事故への対応のために避難口を設けるが、1編成(12両)で数百人にもなる乗客が、仮に真冬の山中に出たとして、どうやって救助するのかといった懸念も指摘されている。

 2027年に開業するためには本体工事と切り離し、2020年6月中に少なくとも準備工事に着手する必要があるとされていたが、着工できていない。タイムリミットを前に、金子慎JR東海社長が6月27日、国土交通省の藤田耕三事務次官が7月10日、相次いで川勝知事を訪ねて会談したが、合意には至っていない。

 金子社長は「ある日を境に無理だと宣言してもあまり意味はない。引き続き少しでも早い開業を目指して努力していく」(7月15日)と述べ、事実上、開業延期になることを認めている。

 事態打開に向け注目されるのが、河川工学やトンネル工学の専門家が地下水への影響などを検証する国交省の有識者会議(4月発足)だ。JRと県の協議にゆだねていた国が、難航を受けて前面に出てきた形だ。

 政治的にもつれた糸を解きほぐすのに、権威ある専門家の意見を参考にするのは、ある意味、歴史の知恵だ。科学的な専門性の高いテーマの場合はなおさらで、新型コロナ禍の専門家会議などの活躍は、評価はいろいろだが、国民には重要な判断材料を提供している。過去には、成田空港問題で、経済学の重鎮、東大名誉教授の隅谷三喜男、宇沢弘文両氏らの仲介で円卓会議を設けて反対派農民と国の話し合いを仲介し、拡張計画の一部を変更して合意に達した例もある。

 こうしたケースでは、専門家の権威はもちろんだが、省庁の政策へのお墨付きを得る御用機関と化した審議会とは異なる「第三者性」が重要になる。この点で、7月16日の第4回会議後の記者会見で、福岡捷二座長(中央大研究開発機構教授、土木工学)が「方向性が見えてきた。JR東海の計算による限り、トンネルを掘っても下流の水利用に悪影響にならないのではないか」と述べたことに、川勝知事が後日、「座長がいきなり価値判断をした」と批判するなど、先行き不透明感はぬぐえない。

 川勝知事の真意について、藤田次官との会談で知事が、静岡県議の意見として、静岡県を迂回するルートへの変更に言及したことが関係者の関心を集めた。また、東海道新幹線に、静岡空港の真下の地下新駅を作る「リニア・新幹線駅バーター論」も根強くささやかれるが、水問題をこれだけ主張している以上、「露骨な取引は困難」(大手紙経済部編集委員)との見方が一般的だ。

 大手紙は6、7月に一斉に社説で論じたが、論調には落差がある。

 早期着工、完成を求めるのが読売、産経、日経だ。

 読売(7月8日)〈開発と環境保護を両立させるため、静岡県と国を交えて科学的見地からの検証を急いでもらいたい〉

 産経(7月4 日)も、〈政府やJR東海は環境保全と早期開業の両立を促すための妥協策を提示すべきだ。川勝氏も大局的な観点で早期開業に向けて協議に応じてもらいたい〉

 日経(6月27日)〈静岡県とJR東海は専門家の見解を尊重し、合意形成をめざしてほしい〉

 中でも産経は〈川勝氏も同社との協議で具体的な条件を示すべきである。反対ばかりが知事の役割ではない〉、読売も〈県の交渉姿勢にも問題がある。川勝知事は昨年、県内にリニアの駅がないと指摘し、「(JR東海は)代償を積まないといけない」と語った。他県での駅建設費と同等の経済的見返りを要求した〉と、川勝知事を名指しで苦言を呈しているのが目を引く。

 3紙の工事推進の「論拠」もおおむね一致。

 〈リニアと東海道新幹線が並行して走れば、どちらか1本が地震や津波で被災しても、バイパスを確保できる。東京―大阪が片道1時間で移動できるようになれば、東名阪を包摂する広域経済圏が誕生するかもしれない〉(日経)

 〈東京、名古屋、大阪の三大都市圏を結ぶ新たな動脈と位置付けられている。地震や台風などによる東海道新幹線の被災に備えた代替路線としての役割も重要だ。そうした重要インフラの開業が遅れる事態は、国にとっても影響が大きい。……名古屋では9年の開業に向けた街づくりも進んでいる。開業が大幅に遅延することは望ましくない〉(産経)

 〈開通すれば品川―名古屋間(286キロ・メートル)を40分で結ぶ。経済活性化への期待は大きい。東海道新幹線のバイパスとして、大災害時の備えともなる〉(読売)

 東海道新幹線のバイパスとして大地震などへの備えと、沿線開発、経済効果への期待だ。

 一方、朝日と毎日は工事をやめろとまではいわないが、JR東海の対応を手厳しく批判する。

 朝日(6月30日)は〈環境をどう守るつもりなのか。JR東海は地元の自治体や住民の理解が得られるよう、説明を尽くさねばならない〉として、〈JR東海は13年に、大井川の流量減少の可能性を指摘していた。しかしその後、十分な対策を講じて丁寧に説明する責務を果たしてこなかった。今回ようやく、水問題をめぐって社長が初めて知事と会談した。7年間何をしてきたのか。工事を急ぐあまり、環境や地域住民への配慮がおろそかになっていなかったか。自らの姿勢を省みる必要がある〉と糾弾。

 毎日(7月12日)も、〈JR東海は、データを出しさえすれば反論を抑えられる、と考えていたのではないか。静岡県から突きつけられた環境調査の課題を「あまりに高い要求だ」と受け止め、反目しあって議論がかみあわない状態が続いている。……JR東海には、地域のいらだちや不安に誠実に向き合おうとする意識が足らなかった〉と書く。

 両紙はまた、新型コロナウイルスの感染拡大も踏まえ、〈リニアを巡る環境には変化が生じている。新型コロナウイルスの感染拡大やデジタル化を背景に、遠距離移動は減る可能性がある。外国人観光客がどこまで回復するかも見通せない〉(毎日)、〈コロナ禍のもと、東海道新幹線の乗客は一時、前年比で9割も減った。テレワークの普及が進み、従来のような出張の利用は見込めない可能性がある〉(朝日)と、状況の変化を指摘。朝日はJR東海に〈需要想定を見直したうえで、採算面についても国民に説明するべきだ〉と求めている。

 この種の話で朝日、毎日と歩調を合わせることが多い東京・中日(6月30日)は、読売などの積極論とは一線を画しつつ、〈品川や名古屋のほか、長野県飯田市や岐阜県中津川市など途中駅の沿線では「二七年開業」を前提にした都市再開発計画が進行中。地下での駅舎建設が始まった名古屋では、再開発への用地買収も進む。

    開業のずれ込みは、こうした各都市の計画にも少なからぬ影響を及ぼすとみられる〉と、沿線への経済的なマイナスを強く懸念し、〈有識者会議の科学的・工学的視点での議論に立脚し、地元も十分に納得した上での着工を望みたい〉と、工事への期待感を隠さないのが目を引いた。名古屋が本拠のJR東海の社運を賭けたプロジェクトであり、名古屋圏の期待が高いことを踏まえた論調と言えそうだ。

 いずれにせよ、国交省の有識者会議がカギを握るとの見方は共通。工事への基本スタンスの違いはあっても、中立性などが重要との認識は一致する。

 〈拙速にならぬよう、科学的な検証が求められる。国交省は会議の透明性や中立性にも留意しなければならない〉(朝日)

 〈中立性に配慮し、早期に見解をまとめてほしい。わかりやすい根拠を示し、住民らに安心を届けることが大切だ〉(読売)

 その点で、毎日が特に、〈中立的な立場で議論を進めることが前提だ〉とした上で、藤田・国交次官が知事に会って説得に努めたことを〈有識者会議の議論が集約された段階ではない。開業スケジュールありきの拙速な対応ではないだろうか〉と、強い疑問を呈している。
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岸井 雄作(ジャーナリスト)
1955年、東京都生まれ。慶応大学経済学部卒。毎日新聞で主に経済畑を歩み、旧大蔵省・財務省、旧通商産業省・経済産業省、日銀、証券業界、流通業界、貿易業界、中小企業などを取材。水戸支局長、編集局編集委員などを経てフリー。東京農業大学応用生物科学部非常勤講師。元立教大学経済学部非常勤講師。著書に『ウエディングベルを鳴らしたい』(時事通信社)、『世紀末の日本 9つの大課題』(中経出版=共著)。
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