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「分配が後退、アベノミクス回帰」の評あふれる 

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【論調比較・岸田政権の新しい資本主義】産経、読売からも疑問  市場はなお「左派色」懸念

公開日: 2022/06/05 (政治, ビジネス)

Reuters Reuters

岸井 雄作 (ジャーナリスト)

 岸田文雄首相が看板政策として打ち出した「新しい資本主義」のグランドデザイン(全体構想)と実行計画が2022年5月31日まとまった。これを中核とする22年度の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」とともに、6月7日に閣議で決定する。

 人への投資、資産所得倍増などを打ち出し、経済成長を重視する内容で、政権発足当時に強調した「分配」重視の姿勢が後退し、「アベノミクスへの回帰」との評もあふれる。政府支持の論調を取ることが多い産経や読売からも疑問の声が出ている。

 政府の「新しい資本主義実現会議」が5月31日まとめた。

 格差拡大や気候変動などの社会問題について「新たな官民連携」で解決を目指しつつ、経済成長にもつなげるとした。そのために、①人への投資、②科学技術・技術革新、③スタートアップ(新興企業)、④脱炭素・デジタル化――の4分野に重点的に投資する方針を明記した。

 「人への投資」について、企業に賃上げを促すのに加え、貯蓄に偏る個人金融資産を投資に振り向け、「企業価値の向上の恩恵が家計に及ぶ好循環を作る」と強調。「資産所得倍増プラン」の年末の策定を目指し、少額投資非課税制度(NISA)の抜本的改革や個人型確定拠出年金(iDeCo)制度の加入上限の65歳以上への引き上げなどを検討することを盛り込んだ。

 また、成長分野に人材が集まりやすくするため、転職やキャリアアップを後押しする体制整備にも重点を置く。3年間で計4000億円規模の施策パッケージを打ち出し、非正規雇用ら100万人を対象に学び直しや再就職支援を実施するなどとした。

 スタートアップ支援では5カ年計画を22年末に策定。脱炭素では、新たな国債「GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債」(仮称)を創設し、10年間で官民合わせて150兆円の投資を目指す。政府が発行して資金調達し、再生可能エネルギーなどの分野の民間投資を支援するものだ。

 分配については、すでに取り組む賃上げ税制(賃上げした企業への税優遇)の拡充に触れた程度で、富裕層を想定した金融所得課税の強化には触れなかった。

 「新しい資本主義」がまとまったと報じられた6月1日朝刊は、泊原発の運転差し止めを認める札幌地裁の判決と重なり、大手紙各紙の扱いは分かれた。

 読売、産経、日経は1面トップで新しい資本主義と骨太の方針をセットで報じ、読売と産経は泊原発が左側2番手。これに対し、朝日、毎日、東京は泊原発をトップで報じ、新しい資本主義は朝日は1面左肩3段見出し、毎日は同じ扱いでほぼ骨太の方針に特化した記事。東京は1面に本記はなかった。

 これ以外に、各紙は2、3面、経済面、政治面などでさまざまに詳報、解説した。毎日は3面の上半分を新資本主義の記事でつぶし、東京も同じく3面半分近くを費やして報じた。

 ここで、各紙が一斉に指摘したのが「格差是正」の後退だ。

 岸田首相は21年9月の自民党総裁選、10月の就任直後の総選挙でも「新しい資本主義」を掲げ、「成長と分配の好循環」を実現すると訴えた。具体的な中身は明確でなかったが、安倍晋三政権から続く成長重視の路線から分配重視にシフトした政策になると受け止められた。

 しかし、選択肢として金融所得課税の見直しにも言及したことで、投資にはマイナスと受け止められ、日経平均株価は新政権発足を挟んで8営業日連続で下落、ツイッターで「岸田ショック」がトレンド入りした。このため金融資産課税は棚上げされ、引き続き検討課題としてはいるが、今回の実行計画にも入っていない。

 各紙の関連記事の見出しを拾うと、「分配かすみ成長回帰」(毎日3面)、「『資産所得倍増』に転換/格差是正 かけ離れ」(東京3面)、「成長力底上げ重視/分配戦略 影ひそめ」(読売3面)、「『分配』後退『投資』前面」(産経3面)、「新しい資本主義 変質/安倍・菅政権と差別化 『分配』は――成長に重点」(朝日3面)と、論調が割れがちな各紙も今回はそろって批判的に取り上げた。

 社説(産経は「主張」)でも、6月4日までに全紙が取り上げたが、論調は首相に厳しい。

 政権支持の論調が強い産経(1日)は〈気になるのは、新自由主義がもたらす最たる弊害である格差問題への取り組みだ。岸田首相が就任当初にみせていた意気込みが感じられないからである〉と指摘したうえで、〈より抜本的に格差是正を図るには、高所得層への富の偏在を抑制できるよう、税制などを通じた所得の再分配を併せて講じる必要があろう。岸田政権はそこまで踏み込もうとはしない。岸田首相は昨年の自民党総裁選で、富裕層に有利な金融所得課税を見直す考えを示したが、反発が強く実質的に頓挫したままだ。これで「新しい資本主義」といえるのか。看板ばかりが先行するようでは国民の理解は得られないと厳しく認識しなくてはならない〉と、極めて厳しい書きぶりだ。

 同じく親政権の読売(4日)も〈分配を重視する政策が影を潜めてしまった。……新しい資本主義は、自由な競争を重視した新自由主義的な政策が格差拡大を招いたとの反省から、中間層の底上げによる格差の是正を目指していたはずだ。その理念が薄れ、安倍政権の政策「アベノミクス」の成長戦略に逆戻りしたとの指摘がある〉と、批判している。

 従来から政権に厳しい目を向ける朝日(1日)、毎日(1日)、東京(3日)の3紙は、金融所得課税の強化が盛り込まれなかったことに、〈投資で稼ぐ富裕層への課税強化という具体策であり、失望感はぬぐえない〉(東京)などと批判する。

 朝日は〈過去の政権下で何度も焼き直された「成長戦略」の繰り返しなら、「新しい」の名には到底値しない〉と指摘。

 毎日は〈新自由主義的なアベノミクスの下、非正規労働者が4割近くも占めるようになった。……日本経済のひずみを是正することが求められた。首相も昨秋の自民党総裁選に出馬表明した際、「分配なくして成長はない」と新自由主義からの転換を訴えていた。だが、今回強調されたのは、デジタルや科学技術などに積極的に投資し、「徹底して成長を追求していく」姿勢である〉と書く。

 いずれも、分配には腰が引け、アベノミクスからの転換には程遠いという指摘だ。

 とくに、金融所得課税強化を見送る一方、「資産所得倍増」を打ち出したことには、朝日が〈格差是正どころか、逆にあおりかねない政策も並ぶ。国民の間で金融資産の保有額の差が大きいなかで、「資産所得倍増」を進める。……市場まかせでは実際の分配が進まず、増えたパイは大企業や富裕層の手元に集中したままになる。その現実を抜本的に変えぬまま、一部の人材や高収益企業を優遇するのは、首相が否定する新自由主義の発想そのものだ〉と書き、毎日も〈世界的なカネ余りによる株高で富裕層ほど資産所得を増やした。……首相は、意欲を示していた資産所得への課税強化を棚上げし、逆に資産所得を倍増させる方針を表明した。株を持つ余裕のない人が置き去りにされかねない〉と批判している。
 
 市場、とりわけ海外投資家の見方を知る参考になるのが日経や海外通信社の論評だ。

 日経社説(2日)は〈分配政策に偏重しがちだった岸田政権が経済の底上げを重視し、競争力を高める投資を促す方針を出したことは一定の評価ができる。……分配の原資となる成長の実現を優先する姿勢は正しい〉と、成長重視を、もろ手を挙げて歓迎している。この社説では、金融所得課税には触れていないが、もともと、〈中所得層以下の税負担も高める金融所得課税の税率の引き上げには慎重であるべきだ。

 「株式投資はお金持ちがやるもの」という固定観念から脱し、多くの国民が投資によって資産を形成するのを後押しするのが本筋だろう〉(2021年10月22日社説)との主張だから、今回の課税強化見送りを批判するはずがない。

 Bloomberg通信(日本語版)は6月2日朝「新資本主義は「売り」か「買い」か、岸田首相の真意探る金融市場」で、岸田首相が21年10月の就任直後の会見で「成長と分配の好循環」を実現するための選択肢として金融所得課税の見直しに言及し、〈金融市場に衝撃を与え〉たと指摘。〈岸田氏はその後、金融所得課税の見直しを当面棚上げする意向を示した。もっとも引き続き検討課題としており、格差や気候変動などの課題解決に向けて「新しい資本主義」の実現に取り組む方針は変わっていない〉と、岸田首相の「左派色」への警戒感をあらわにしている。

 記事は、首相の政策へのさまざまな専門家の賛否各論を紹介しているが、〈内需にインパクトが大きい政策を打ち出してから分配の話をしないとやはり歓迎されない。分配の前の成長戦略をどんと出さないといけない〉といったエコノミストの声を引用して、「成長重視」が金融市場の支持を得るために必要との認識を強調している。

 要は、首相の「新しい資本主義」は、「分配」を先送りにしたと国内で批判される一方、左派的政策ではないかという市場の不信も払しょくできないという「どっちつかず」の状態ということだろう。

 岸田政権の経済運営では、財政再建などをめぐり、自民党の財政健全化推進本部の提言、骨太の方針に、安倍元首相が自ら「介入」し、アベノミクス批判ととられかねない文言を修正させるなどしたと、朝日6月3日朝刊(1面、3面)が報じている。

 憲法改正や防衛費増強など、安倍氏の「タカ派路線」に押されているとみえる岸田首相が、経済政策では岸田カラーを出そうともがくも、なおアベノミクスに手を付けるまでの壁は厚い――そんな実態が、改めて明らかになったということか。
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岸井 雄作(ジャーナリスト)
1955年、東京都生まれ。慶応大学経済学部卒。毎日新聞で主に経済畑を歩み、旧大蔵省・財務省、旧通商産業省・経済産業省、日銀、証券業界、流通業界、貿易業界、中小企業などを取材。水戸支局長、編集局編集委員などを経てフリー。東京農業大学応用生物科学部非常勤講師。元立教大学経済学部非常勤講師。著書に『ウエディングベルを鳴らしたい』(時事通信社)、『世紀末の日本 9つの大課題』(中経出版=共著)。
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