▽柴咲さんのツイート

種苗法改正案で問題提起
江藤農水大臣は5月19日の記者会見で「今国会での審議入りをお願いしたい」と食い下がったが、20日付の日本農業新聞に「与党が法改正見送り」と書かれてしまい、面目は丸つぶれになった。次々と対立法案を通してきた安倍政権にとっては痛手となった。
▽海外流出の防止
農水省は、改正の狙いを海外への優良品種の流出を防ぐことで「農家が優良品種を持続的に利用できる」と説明してきた。日本で開発したイチゴやブドウの新品種が中国や韓国で増殖され、同国内や東南アジアなどで堂々と販売されている事例などを挙げ、「農家の自家増殖を規制することが必要だ」と主張した。同時に「現在利用している大半の品種は(規制されない)一般品種で、規制の対象はごく一握りだけ」と説明し、法改正に理解を求めていた。
日本では長年にわたって、農家がいったん入手した種苗は、自らの経営に使う限り自由に種採りや株分けができた。1998年の種苗法改正で初めて23種に自家増殖禁止が盛り込まれ、その後400種近くに拡大された。今回の法改正で登録品種すべてで自家増殖が禁じられ、増殖には育成権者(農業試験場や種苗企業)の許諾が必要となる予定だった。
法改正反対を最初から唱え議論をリードしてきたのは、雑誌「現代農業」の発行元である農山漁村文化協会だった。自家増殖は農家の権利で、種採りを通じ農家が多様な遺伝資源を守ってきたと主張。さらに「自家増殖は海外への品種流出の原因ではない」などと農水省の規制強化を数年前から強く批判してきた。
▽当初は関心が薄く
当初、農家の関心は高いとは言えなかった。2015年に農水省が行った生産者アンケートによると「種苗法に基づく品種登録制度を知っていた」農家は41%に過ぎなかった。しかし、世論の盛り上がりの中で、農家の間にも自家増殖禁止に対する不満の声が急速に高まった。強引な官邸農政に対する反発も背景にはあった。
2012年の第2次安倍政権になって、農業政策は競争力強化が至上命題になった。農産物輸出の拡大や農村所得の向上が政策目標に掲げられた。その手段として民間企業の農業分野への参入が進められた。農地の規制緩和が進行する一方、育成者権など「知的財産」の権利が強化された。今回の種苗法改正は、民間活力重視という従来の延長線に位置づけることができる。
▽生物多様性を豊かに
自家増殖禁止は、たんに農家の手間やコストが増えるだけではない問題をはらむ。種まきから生育、収穫、採種という一連のプロセスを農家が注意深く観察することで、土地に合う作物の改良が進められてきた歴史がある。ところが近年、作物の多様性は急速に失われつつある。自家増殖を禁じれば、作物に対する農家のまなざしはさらに閉ざされてしまう。
野党や農業関係者の間には、安倍政権による法改正を阻止したことへの高揚感が漂う。だが、法改正の見送りは目標ではない。多様な作物の担い手として、農家による自家採種の復権を目指すことが必要だろう。