米国で産業用大麻(ヘンプ)の生産が伸びている。幻覚症状を引き起こす成分の含有量を少なくした大麻を対象に、2018年から合法化して一般農家の栽培を認めた。丈夫な天然繊維や化粧品原料などへの利用が注目されている。日本でもヘンプ合法化に向けた検討が動き出す。
▽市場牽引する健康効果
米国のヘンプ人気を牽引するのが、健康への効果が期待されるカンナビジオール(CBD)だ。幻覚作用はないとされる。大麻から抽出される主要成分の一つで、鎮痛や催眠、美容などのさまざまな効果を唱え、街のカフェやドラッグストア、通販でオイルやジュース、アイスクリームなどに加工され販売されている。市場は急速に拡大しているという。
天然繊維としてのヘンプにも関心が高まっている。大手の衣料やスポーツ用品企業が相次いでヘンプ繊維を使った新製品を投入した。各社のウェブサイトでは、ヘンプ使用のジーンズやジャケットなどが並んでいる。大麻は古くからロープや帆布などに使われ、耐久性には定評がある。肌に触れるとごわごわするという弱点はあるが、木綿との混紡にするなどして改善した。
ヘンプは乾燥地帯でも生育可能で、有機栽培にも適していることから、繊維として利用する企業は「環境に優しい作物」としてPRしている。
▽18年米農業法で合法化
米国でヘンプが合法化された歴史は浅い。50年近い栽培禁止措置が解かれたのは、2014年。州政府のパイロットプログラムに限定して小規模な栽培が認められた。目的はCBDと同様、大麻の主要成分で、幻覚をもたらすテトラヒドロカンナビノール(THC)をほとんど含まない大麻を選抜すること。
THCフリーで栽培できるヘンプの技術開発にめどがつき、2018年米国農業法で、正式に合法扱いとなることが決まった。補助金の対象となり”普通の作物”として、2019年から全米各地で商業栽培が走り出した。
最近発表された米農務省の調査によると、栽培面積(2021年)は全米で2万2000ヘクタールに達している。コロラド、ネブラスカ、ケンタッキー州など穀物生産地帯で栽培が増えた。調査によると市場規模は、8億ドル。CBD向けが8割近くを占め、残りは繊維、穀物などに向けられている。
CBDの市場は拡大しているが、ヘンプ栽培で先行するカナダなどからの輸入に加え、米国内の生産も急増し、販売価格が下落。米国内の生産拡大にブレーキが掛かるとの見方も強い。新たな海外市場の開拓が課題だ。
▽日本でもCBD市場は拡大
一方で日本でもCBD人気は高まっている。厚労省は2019年にCBD含有の薬物を治験の対象として認めたことから、輸入商品が日本市場にあふれるようになった。大手のオンライン通販サイトには、CBD関連商品が並ぶ。ほぼ全量が輸入品だ。
日本政府は欧米に比べ、大麻に対して厳しい姿勢をとってきたが、昨年、大きな変化が生まれた。厚労省が大麻等の薬物対策のあり方検討会を開き、方針転換の姿勢を明らかにしたからだ。同省監視指導・麻薬対策課の山根正司課長補佐は説明する。
「海外で医薬品としての有効性が認められていることやTHCの含量を規制する方向に動いていること、また、国内ではすでにTHCが少ない品種が普及していることから、日本としても大麻規制対策の見直しを検討することにした」
同省は具体的な手順や日程を明らかにしていないが、現在の大麻取締法を改正し、一定のTHC含量以下の大麻については栽培を合法化する方向とみられている。THCなどの薬物乱用には従来の厳しい取り締まりを維持する方針だ。
現在日本国内では事実上、新規の栽培免許が停止され、大麻栽培者数は35人(2019年)まで減っている。新たな地域振興作物として産業用大麻を検討する地域もあり、政府の法改正が固まれば、栽培が広がる可能性がありそうだ。
米国で産業用大麻が人気 日本でも解禁の動き |
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【農を考える】幻覚成分の少ない大麻でブームに
大麻=CC BY /aeroSoul
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山田 優(農業ジャーナリスト)
農学博士。1955年生まれ。日本農業新聞記者出身で海外農業を担当してきた。著書に『亡国の密約』(共著、新潮社、2016年)、『農業問題の基層とは何か』(共著、ミネルヴァ書房、2014年)、『緊迫アジアの米――相次ぐ輸出規制』(筑波書房、2005年)などがある。
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