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電子機器化で変わる農機 修理コストもバカにならない

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【農を考える】米公正取引委 修理する権利を認める

公開日: 2022/01/24 (ビジネス)

米国の大型コンバイン(撮影・山田) 米国の大型コンバイン(撮影・山田)

山田 優 (農業ジャーナリスト)

 「修理する権利」が米国で関心を集めている。自分で購入した車やスマホなどの家電製品が故障したとき、昔ならドライバーを回し中をのぞいて直した経験があるだろう。最近は電子回路が増えた上に構造が複雑で、メーカー系列の代理店などに依頼することが多い。

 これも世の流れと諦めるのは早い。米国ではバイデン大統領が昨年7月上旬、消費者による修理の権利を守るための大統領令を出した。トラクターを買った農家が、自由に修理できるよう、連邦取引委員会(FTC)に取引ルールを見直すように指示した。

 1990年代から取材で何十もの米国の農家を訪ねてきた。優れた農家の農機具庫には、工具類がきちんと整理され、ぴかぴかに磨き上げられたトラクターやコンバインが鎮座していた。栽培規模が大きい分、欧米の農機は高馬力のエンジンを積み頑丈に製造されている。ボディーは無骨なまでに厚く、少々の酷使には十分耐えるように見えた。

 彼らは例外なく自分で修理することを自慢していた。農閑期になると、自分でフードを開けてごみや土を取り除き、オイルを換えてエンジンの具合を調整してきた。ふだんから多少の故障は自分で直したり、地元の小規模な修理業者に持ち込んだりして対応した。大規模経営の農家にとって、農機のコストはばかにならない支出だ。農機修理は趣味と実益を兼ねているようだった。

▽スマート農機登場が原因

 そんな風景が大きく変わりつつある。スマート農機の急速な普及が原因だ。かつてエンジンとキャビンとタイヤというシンプルな構造だったトラクターは、外見こそ大きな違いはないが、別物になったと言って良い。衛星情報に基づいて進行を自動調整したり、走行中に画像を処理しながら後ろに装着する作業機の動作を瞬時に指示したりするなど、畑を走る電子機器と化している。

 スマート農機は、限られた人手で大規模な面積を走り回ることできるほか、精密農業技術で肥料や農薬の散布量も削減することができる。AIを使えば農家の経験や勘まで農機が最適な判断をしてくれる時代も遠くない。「便利で良いことずくめのスマート農機は、未来の農業に欠かせない」みたいな記事を最近よく見かけるようになった。

 ところが実際に使うと、メンテナンスや修理の方はあまりスマートとは言えない現実にぶつかる。機械部分が急速に電子化し、複雑になった。ドイツで開かれた国際農業機械展示会のメディア向け説明会で、大手農機企業の担当者は「最新のコンバインや作業機には数十ものセンサーが装着されている」説明していた。

 不具合が出たときに、原因を突き止めるには専用の診断ソフトウェアや機器がなければ対応できない。言わばブラックボックスで、農家がドライバーやレンチを取り出して直すという芸当が難しくなってきたのだ。

 農家にしてみればちょっとの不具合で正規の代理店に農機を持ち込んだり、作業員の派遣を依頼したりする以外の対応ができない。欧米では農機代理店の合併が進み、どんどん数が少なくなっている。遠距離になるため、電話で「すぐ来てくれ」とは頼みにくいケースが増えているという。農作業の真っ最中に農機が止まったまま動かせなければ、死活問題だ。

▽修理コスト上昇が重荷

 また、修理コストの上昇も農家の重荷だ。米メディアによると、ある大手代理店の場合、修理担当者が「訪問」しただけで数百ドル(1ドル約110円)、作業する間は1時間当たり150ドルを徴収するというから金額は半端ではない。

 インターネットで検索し、診断ソフトウェアの違法コピーをダウンロードして自ら不具合を直すことを試みる農家や独立系の中小修理業者もいるという。もちろん、合法ではない。

 メーカー側は「農家が勝手に農機をいじれば安全性が担保できない。暴走したり、排ガスが規制値を上回ったりしたらだれが責任を負うのか」という理屈で正当化する。「機械を制御する仕組みは開発企業の知的所有権で保護されるべきだ」とも主張する。

 やむを得ない論理のようにも見えるが、高いお金を払って買った農家からすれば、「欲張らないで修理できるようにしてくれ」という不満がたまる。のどかに見える田舎にも知的所有権の波が押し寄せている。農機が内蔵するソフトウェアだけではない。遺伝子組み換えで開発された種子は、農家が買っても、知的所有権の制約で勝手に増殖したり、翌年に持ち越したりできない。かつて農家が自分が所有すると思われていたモノが、実際には利用が制限されるようになってきた。

 米国の農業団体は、数十もの州議会に修理する権利の法制化を働きかけてきた。農家に限らず、ハイテク満載の自動車で同様の修理の問題に直面する消費者や街の修理業者も、「修理する権利」強化を訴え運動に参加し、すそ野が広がった。

 農家などのこうした不満をすくい上げる形で、バイデン氏は大統領令によって修理する権利の強化を打ち出した。大統領が本当に標的にしているのは、影響が桁違いに大きいGAFAなどと呼ばれる巨大IT企業だと言われているが、これまで草の根から運動を主導してきたのは農業団体だ。

 大統領令を受けFTCは7月下旬、不当な修理制限について正式に調査を始めることを決めた。ある大手農機メーカーは「顧客が自分の道具で農機を安全に維持し、診断、修理する権利を尊重する」と低姿勢の声明を発表した。修理する権利は少しずつ回復する方向に向かうのだろうか。いっぺんに事態が好転するとは思えない。スマートに利益を吸い上げようとするメーカーに対抗し、注意深く監視してもの申すスマートな農家が増える必要があるだろう。
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山田 優(農業ジャーナリスト)
農学博士。1955年生まれ。日本農業新聞記者出身で海外農業を担当してきた。著書に『亡国の密約』(共著、新潮社、2016年)、『農業問題の基層とは何か』(共著、ミネルヴァ書房、2014年)、『緊迫アジアの米――相次ぐ輸出規制』(筑波書房、2005年)などがある。
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