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【農を考える】農業経営者が語るアナログの大切さとは

公開日: 2021/07/29 (ビジネス)

トラクター=㏄byMarcelX42 トラクター=㏄byMarcelX42

山田 優 (農業ジャーナリスト)

 スマート農業と言うと、人工知能(AI)やロボットなどの画期的な情報通信(ICT)機器の利用ばかりがメディアを賑わす。農村の高齢化や人手不足解消の決め手と期待されている。

 一方で、派手なスマート化ではなく地道な改善の積み重ねが大切と言い切る農業経営者も少なくない。最新機器に振り回されるのではなく、目的の達成に必要なものだけを選択する発想だ。

 アナログの大切さも語る3人の農業経営者を紹介する。

▽決め手は昔ながらの対策

 2005年に農業に参入し、170ヘクタールの水田を経営する丸田洋さん(46)もその一人。新潟県上越市板倉区内で急成長する穂海農耕の社長だ。

 新潟と言えばコシヒカリ。しかし、穂海農耕が栽培している品種は10以上ある。売り先の実需者とは事前に契約を結び、相手の要望する多様な米質に合わせた品種を選ぶためだ。

 「農地を貸したい人が増え10年以内に数百ヘクタールに増える可能性がある」と丸田さんは予測する。

 同社は2021年度の農業イノベーション大賞(日本農業情報学会主催)で優秀賞を受けた。

 急激に規模拡大しても米の品質が低下しないように、稲の葉の色を解析し生育状況を分析するシステムの開発に携わるなどICT利用は人一倍進めている。社員の情報共有などでも先進的な試みが特徴だ。

 だが、丸田さんが生産性向上の決め手と考えるのは、もっと昔ながらの対策だ。

 「田んぼ1枚の面積を大きくしたい。トラクターなど農機の作業性が大幅に向上し、草刈りなどの負担も軽減できる。規模の大きい農業法人はどこも同じように考えていると思う」

 日本の田んぼは、あぜ(畦)によって細切れのような小さい区画に分かれていたが、長年の基盤整備事業によって1枚30アールの広さに改造されてきた。

 丸田さんはさらに3倍の1ヘクタール以上に広げることがコスト削減に結びつくと考え、あぜ撤去などを計画中だ。

▽大切なのはパン職人のまなざし

 デジタルの利点を生かしながら、アナログの心を忘れないのが、同じく農業イノベーション大賞で優秀賞を受賞した北海道本別町で120ヘクタールを経営する前田農産食品だ。

 主力は小麦栽培。十勝地方で典型的な畑作経営と言えるが、社長の前田茂雄さん(46)の目指すICTの使い方も独特だ。
 
 最近、北海道を中心に可変式施肥機が普及し始めた。従来はトラクターの後ろのタンクに肥料を積み、薄くむらなく肥料を一律に飛ばす施肥機が主力だった。

 可変式は、作物の状態に合わせて肥料の量を細かく調整できる。同じほ場でも肥料成分が必要な場所にはトラクターを走行しながら自動的に多めに施肥ができる仕組み。逆に不要なところには肥料を飛ばさない。

 全国のパン職人とのイベント交流を15年以上続けた前田さんは、可変式施肥機を装着したトラクターのハンドルを握る際、パン職人の顔を思い浮かべる。

 「パンの原料にする小麦はタンパク質が多い方が良いと言われているが、職人たちと話をすると、パンの種類や焼き方によって欲しい小麦粉のタンパク含量が微妙に異なる」

 単に大量に均一の小麦を生産するのが目的ではなく、職人がパンを焼きやすくするための手段としてICTを使う。前田さんがすばらしい小麦粉ができたと思っても、パン職人の評価が異なることがある。

 「大切なのはパン職人のまなざし」と前田さんは言い切る。パン職人の感触に寄り添うことで農業経営が安定するというのが前田さんの信念だ。

▽拍子抜けする簡易な装置

 2013年度の農林水産祭天皇杯を受賞した茨城県横田農場の横田修一さん(45)は、水田のスマート農業分野では最先端を行く優秀な農業経営者。

 今力を入れているのは1台6万円余りで設置でき、水田の水管理を省力化する自動給水機だ。横田農場のほ場に設置するのはもちろん、全国の農家向けに機械を開発・普及する農匠ナビ株式会社の社長でもある。

 自動給水機は田んぼの水口に農家が自分で設置する。複雑な通信制御機器が付属していないため、小さなモーターを動かす乾電池だけですむ。田んぼの水量に合わせてパイプがおじぎをすることで水口から注水したり、止めたりする。防さびを施した鋼板で組み立てたもので、スマートな農業機器とは縁遠い。以前、横田農場での実演を見せてもらった。拍子抜けするような簡単な設置だったが、横田さんは言う。

 「実際に農家が困っているのは省力化。自動給水機を通信機器と連動して高度な栽培管理や情報収集は可能だが、最低限の機能でも役に立つ」

 全国各地で生まれる大規模稲作経営は、ほぼ例外なく借地で面積を増やした。田んぼは飛び地になっているため、田んぼの水の状態を確認して調整するために、車に乗って朝から晩まで走り回ることも少なくない。その分労力が必要だ。

 手間を省くためだけであれば、コストのかさむ最新鋭機器ではなく、簡易な装置で十分というのが開発のきっかけだった。

 「給水器にICT機器を装着すれば、水田の水位や給水量をデジタルで管理できるようになるが、それは必要に応じて考えれば済む」

 身の丈に合わせて当面する課題に取り組むには、農家の工夫が大切。コストのかさむスマート農業だけが解決策とは限らない。
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山田 優(農業ジャーナリスト)
農学博士。1955年生まれ。日本農業新聞記者出身で海外農業を担当してきた。著書に『亡国の密約』(共著、新潮社、2016年)、『農業問題の基層とは何か』(共著、ミネルヴァ書房、2014年)、『緊迫アジアの米――相次ぐ輸出規制』(筑波書房、2005年)などがある。
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