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中国爆食の悪者説に異議あり

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【農を考える】食料在庫を増やして「罪人扱い」はひどい

公開日: 2022/01/07 (政治, ビジネス)

中国の爆買いと言うが=Reuters 中国の爆買いと言うが=Reuters

 1年ほど前から世界の食料価格が上昇し、私たちの身近な食品の値上がりが相次ぐ。メディアでは中国による買いあさりが国際相場を押し上げているとの論調が目立つ。しかし足りないものを海外から買う行為を非難するのは筋違いだ。必要な食料の手当てを怠る方が間抜けと批判されるべきだ。

▽「日本買い負け」唱えるメディア

 12月19日付の日本経済新聞は1面で「世界の穀物
中国買いだめ」という記事を掲載した。中国が食料の買い集めを加速し在庫を積み上げていることが、穀物の高騰や貧困国の飢餓拡大の一因になっているという趣旨だ。

 「牛肉高騰のウラに中国の爆食」(FNNプライムオンライン)
 「超高齢化が進む中国 大量の爆食高齢者が世界の食糧バランスを変える」(週刊ポスト)
 「シャウエッセン値上げ 日本ハム常務食肉、中国に買い負け」(朝日新聞)
 「中国食料不足への危機感 食糧自給低下による爆買いがもたらす影響」(NHK)

 最近の記事をオンラインで検索すると、日経の記事に限らず、中国の爆食のあおりで日本が買い負ける式の報道が目白押しだ。

 中国が海外から大量の食料を輸入していることは事実だ。1億トンを超える大豆をはじめ、牛肉やトウモロコシなどをブラジルや米国から買い入れている。日本の米生産量700万トン余りと比べると、数字の巨大さは際立つ。こうした中国の輸入が昨秋からの国際相場押し上げに結びついたのは間違いない。

 しかし私が中国の政治家なら「国内生産でまかなえない食料を輸入に頼って何が悪い」と反論したくなるだろう。食べものを武力で奪うのは論外だが、私の知る限り、中国はお金を払って大豆やトウモロコシを買い付けている。逆に米国やブラジルの農家が「もっと私から買って」と中国にお願いをしているのが現実だ。

▽自由貿易推進はどこに

 ふだんは自由貿易推進の旗を振る日本のメディアが、貿易で解決しようとする中国をこれほど叩くのは二重基準だ。日中間は政治や外交分野で緊張感が高まっている。中国のことなら何を批判しても許されると考えたのだろうか。

 忘れてはいけないのは、20世紀まで中国が貧しい国だったことだ。国連食糧農業機関(FAO)によると、2001年の中国の栄養不足人口割合は10%だった。国内に1億人以上の飢餓を抱えていたが、現在は日本と同水準の2・5%まで下げることに成功した。

 この間の経済成長に伴う畜産消費の急成長も考えれば、大量の食料増産が必要だったことになる。国内農業生産だけで、すべて国民の食料を賄うのは難しかったのだろう。

 中国は食料自給に日本以上に務めている。1996年、中国政府は穀物、油糧作物、芋など主要な食料の自給率を95%に維持する政策を打ち出した。その2年前に米国のレスター・ブラウン氏が出した論文「だれが中国を養うのか」で、中国が大量の穀物輸入国に転じるとの観測が国際社会で広がり、反論したかたちだ。

 現在、大豆の大量輸入の影響もあって95%目標は割り込んでいるが、米ワシントンの国際食料研究所などの資料によると、2019年の時点で穀物などの自給率は90%を超えている。中国政府の農家支援策は手厚い。多額の国内農業補助金は、世界貿易機関(WTO)の場で米国と紛争になったほどだ。

 小麦や大豆などの国内生産をほぼあきらめ、穀類の自給率が28%しかない日本が、中国のことを「買いあさり」などと批判する資格がまったくないことは明らかだ。

▽食料輸出大国の中国

 実は、中国は食料の輸出大国の顔も持つ。

 米シンクタンクのCSISの報告書「中国はどのようにして14億人を養っているのか」は、興味深い分析をしている。2017年の中国の食料輸入額は1050億ドル(11兆円余り)だが、同じ年、半分以上の596億ドルの食料を輸出している。ちなみに中国の最大の食料輸出先は日本(80億ドル)だ。

 穀物などバルク商品を海外から輸入し、付加価値の高い野菜や果実、加工食品の輸出に力を入れるスタイルは中国に限らない。オランダやイスラエルなど一部の先進国も採用している。こうした国々が「買いあさり」と批判されたことはあるのだろうか。

 日経の記事では中国が食料在庫を増やしたことに触れ、世界の飢餓の責任を中国が負うべきだという識者のコメントを紹介している。これもおかしな話だ。先に触れたように小麦、米、トウモロコシの自給率は高く、在庫の多くは国内産が充てられたのだろう。

 自ら生産した食料を在庫に積み増しして罪人扱いされるのは、どう考えても理屈に合わない。

 天候不順で世界の食料需給がひっ迫した時、14億人を抱える中国が豊富な在庫を持っていることは、むしろ安心材料だ。在庫を持たない中国が、ひっ迫する国際市場で爆買いする方が望ましいとでも言うのだろうか。

 「不足した時には中国政府が食料を外交の武器に使う」という批判があるかも知れない。近年の中国の覇権主義的な動きを見ると、その懸念は十分に分かる。しかし、食料を国際政治の材料に使うのは、米国などでも当たり前の話だ。

 石油やワクチンの例を見ても、持たざる国は、ふだんから備蓄をしたり自国内で供給体制を整えたりすることが必要だ。隣国の買いあさりを批判する暇があったら、日本国内で食料増産の手立てを考えるべきだろう。

山田 優 (農業ジャーナリスト)

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山田 優(農業ジャーナリスト)
農学博士。1955年生まれ。日本農業新聞記者出身で海外農業を担当してきた。著書に『亡国の密約』(共著、新潮社、2016年)、『農業問題の基層とは何か』(共著、ミネルヴァ書房、2014年)、『緊迫アジアの米――相次ぐ輸出規制』(筑波書房、2005年)などがある。
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