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過去最低の食料自給率 もろい新興国の食糧供給力

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【農を考える】収穫量の急増による土壌悪化も懸念材料

公開日: 2021/08/30 (ワールド, ビジネス)

山田氏提供 山田氏提供

 2020年度のカロリーベースの食料自給率が37%で過去最低に落ち込んだ。世界が急な食料不足に陥った場合、海外に依存しすぎて心配はないのか。近年、世界の食料貿易構造の大きな変化に加え、地球温暖化による災害や新型ウイルスの感染拡大など波乱要素が積み重なる。

 食料の自由貿易派は、不安を唱える農業団体などを、「たいへんだ」と繰り返すオオカミ少年になぞらえ冷笑してきたが、イソップ寓話では最後に本当のオオカミに襲われることを忘れてはいけない。

▽見た目よりもろい食料供給

 日本の食料が依存する世界の食料供給は見た目よりももろい。多くの専門家から、農業の先行きについて、さまざまな不安要因が指摘されている。

 第1の不安定要因は間違いなく地球温暖化による悪影響だ。ロシアやカナダ、北欧などの一部を除けば、大半の農業地帯が激しい干ばつや気象災害、高温障害にさらされる。すでに世界各地で水不足が恒常的に問題になっている。日本の農研機構の研究者らは、地球温暖化によって、今世紀末に日本の米収量が100年前と比べて2割減少するとの研究結果を公表した。世界各地で同様の事態が進行中だ。

 第2は供給の面で信頼性が劣る新興国が、近年輸出の主役として国際市場に登場してきたことだ。

 1990年代までは、世界のトウモロコシ、小麦、大豆の輸出元は米国や欧州連合、オーストラリアなど先進国が多くを占めていた。

 21世紀に入る頃から貿易の構図が変わる。大面積の新興国が急速に輸出国として力をつけてきた。小麦の世界最大の輸出国はロシア、大豆はブラジルだ。トウモロコシでも輸出国である米国の地盤沈下は著しい。ブラジル、アルゼンチン、ウクライナなどが急成長する。安い農地価格や人件費が国際競争力の源泉だ。

▽相次ぐ輸出規制

 しかし、新興国の中には国際価格が上昇すると国内優先の立場から輸出規制に踏み切るところが少なくない。

 現在の穀物相場は1年前から上昇に転じたが、この間にロシア、ウクライナ、アルゼンチンなどが輸出税や輸出枠を導入して自国民への供給を優先する姿勢を鮮明にした。

 国際機関や先進国は「輸出規制が不安をかき立て、需給をひっ迫させる」と批判するものの、新興国の多くは自国の消費者ファーストの立場を崩さない。

 生きるために欠かせない物品の場合、ひっ迫すれば必ず国内政治が絡んでくる。この間のマスクやワクチン供給をめぐるどたばたを見ていれば、先進国も本音ではきれいごとだけではないことが明確だ。

▽家畜疾病が世界に広がる

 第3は病害疾病のまん延が世界の食料流通をかく乱すること。新型コロナウイルスの感染拡大による農業生産への直接の打撃は、労働集約型の果実や野菜生産などを除けば少なかった。しかし、国境閉鎖でトラックが世界各地で立ち往生したり、食肉加工場がストップしたり、コンテナ船の流通が混乱したりして物流は大きく混乱した。パンデミックは最も弱い部分を狙い撃ちする。

 現在問題になっているのは人間の疾病に限らない。アフリカ豚熱や口蹄疫などの家畜伝染性疾病が、猛威をふるっている。世界最大の養豚国である中国では、この間に飼っていた豚の4割を病気で失うなど大打撃を受けたと言われる。人間の新型コロナウイルスと同様に、国際物流や旅客数の飛躍的な拡大が、家畜の疾病を拡散させ、感染爆発を招くようになった。

 こうした警告は、多くのメディアなどで指摘されているが、筆者はもう一つ見過ごせないリスクが潜んでいるように思う。それは目に見えない土壌の悪化だ。現在の農業生産はずいぶんと無理を重ねてきた。農業は土壌に依存する。窒素、リン酸、カリなどの養分は化成肥料で補えるものの、多様な微生物や腐食と呼ばれる表土を支える大切な要素が劣化している。

 米国の農務省や大学、バイオ企業などを訪ねると、よく見せられた折れ線グラフがある。1900年から1930年ぐらいまでは平坦で、その後急激に右上がりになる。この間の主力作物であるトウモロコシの全米1エーカー(約0・4ヘクタール)当たり収穫量(1ブッシェル=約25キロ)の変化を示している。

▽表土の減少が進む

 1930年頃までは1エーカー当たり30ブッシェルだった単位収量が、現在では160ブッシェルを超えている。100年たたないうちに、同じ面積から取れるトウモロコシが5倍以上に増えたのだ。

 グラフを見せる側は、米国の近代農業技術のすばらしさを伝えようというわけだが、筆者は逆にここまで背伸びを続けることへの不安の気持ちを抱く。生物多様性を軽視し、遺伝子を組み換えた優良児童みたいな種ばかりに依存する近代的な農業は、想定外の事態に弱い。

 無から有は取り出せない。土壌という限られた資源を絞りすぎれば、どこかで無理が出てくる。右肩上がりの単位収量の上昇は、必ず行き詰まる。すでに世界の主要産地で表土の減少が問題になっていることを忘れてはいけない。

 温暖化が加速し、気象災害がひん発。人間や家畜、作物の病気もまん延する。そして世界各地で限られた食料の囲い込みが始まる。肝心の農地の劣化で作物の増産がままならない。こんな近未来は見たくないが、リスクとしては覚悟する必要がある。

 21世紀に入って、世界の農業をめぐる最悪のシナリオが現実味を帯びているように思える。

 2年前にほとんどの人たちが予想していなかった新型コロナウイルスというオオカミが、世界中に襲いかかってきた。お金にならないマスク生産やワクチン研究への投資を軽んじた日本は大きな代償を被った。食料の6割以上を海外に依存し続けることに無関心ではいられないはずだ。

山田 優 (農業ジャーナリスト)

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山田 優(農業ジャーナリスト)
農学博士。1955年生まれ。日本農業新聞記者出身で海外農業を担当してきた。著書に『亡国の密約』(共著、新潮社、2016年)、『農業問題の基層とは何か』(共著、ミネルヴァ書房、2014年)、『緊迫アジアの米――相次ぐ輸出規制』(筑波書房、2005年)などがある。
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