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有機農業100万㌶構想動き出す 野心的か無理筋か

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【農を考える】30年で40倍 有機農業面積を25%に

公開日: 2021/06/28 (ビジネス)

【農を考える】30年で40倍 有機農業面積を25%に

 広さを表すのに東京ドーム何個分という表現がよくメディアで使われる。これにならえば20万個分ということになるのだろう。計算では30年先、田舎のあちこちに有機農業の田畑が立ち並ぶことになるのだが・・・。

 農業の環境負荷削減などを目的に、農林水産省が5月に決めたみどりの食料システム戦略。中でも有機農業を日本の全農地の25%、100万ヘクタールに拡大するという方針が議論を呼んでいる。

 現在の有機農業面積から、30年間で40倍に拡大させる計画だ。その意気込みや良し。しかしハードルは高く、達成するには相当の力業が必要になるだろう。

 みどりの食料システム戦略決まる

 まずは農水省が描く有機農業の目標を整理する。戦略は「2050年までに耕地面積に占める有機農業面積の割合を25%(100万ヘクタール)にする」ことを柱の一つに据えた。

 持続的な食料システムを目指すには、化学農薬や化学肥料に依存しない有機農業が大切な役割を果たすと考えたからだ。

 日本の現在の有機農業面積は、同省調べで2万3700ヘクタール(2018年)。戦略は約30年間にこの数字を40倍余りに増やすという野心的な内容だ。

 筆者が作成した棒グラフを見てほしい。計画のたいへんさが一目瞭然に伝わってくる。左端が現在の有機農業面積。右端は目標の100万ヘクタールだ。

 毎年3万㌶拡大

 毎年同じ面積を増やそうとした場合、毎年3万509ヘクタールずつ拡大する必要がある(青色の棒)。ざっくり言えば、現在の有機農業面積を少し上回る広さを、毎年同じようなペースで増やす。

 しかし、何十年も掛かって現在に至った有機農業面積を、これから毎年繰り返して拡大する計画は現実的だろうか。

 それでは、最初の内は増やし方がなだらかで済む定率の増加方法を採用するとどうだろうか(緑色の棒)。計算では毎年12・4%増やしていけば目標達成できる。最初の数年は3000~4000ヘクタールを拡大する程度で、現実的なようにも見える。

 しかし、その「つけ」を払うためには、後半から増加幅が急拡大する。最後の数年は毎年10万ヘクタールほどを増やす必要がある。これもきつい目標だ。

 これまでの有機農業面積の傾向を振り返ってみる。同省の調査では2018年までの9年間に約7400ヘクタール増えた。年間にすれば820ヘクタール(試算1)、または4・2%の増加(試算2)に相当する。このペースを単純に延長してみたのがそれぞれ赤い線と黄色い線だ。

 目標達成に届かない

 結果は目標の100万ヘクタール対して、5%、9%にしか達しない。これまでのような取り組みが続けば、目標達成には遠く及ばない可能性が大きいことが分かる。

 保守的と言われる農水省がこれほど野心的な目標数字を出したのはなぜか。戦略づくりに関わった幹部のひとりは言う。

 「すべては昨年5月に欧州連合(EU)が有機農業面積25%目標を打ち出したことに始まる。日本政府は地球環境問題で欧州に見劣りしない対策を出さなくてはならない。菅総理も温暖化対策に意欲的で、ただちに省内で検討が始まった」。

 若手官僚などをかき集め、大急ぎで戦略作りをスタートした。年末にはほぼたたき台をまとめ、今年に入ってからは農業法人、JA、農薬・肥料などの関係団体に「2050年に25%達成できるだろうか」と打診を始めた。表だった反対はなかったとその幹部は説明する。

 同省との意見交換会に出席した関係者のひとりは「従来の延長線では無理。だが、耕作放棄が進む中山間地を丸ごと企業に預け有機農業に転換するなど、大胆な政策を導入すれば不可能ではない」と語る。しかし、同省内で複数の幹部やOBに話を聞くと、30年先の目標達成に自信を持っていた人はいなかった。

 有機農業振興で同省がいちばん期待しているのは最新技術の実用化だ。みどりの食料システム戦略の副題は「食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現」とある。

 ビッグデータや人工知能(AI)、ロボットの活用などスマートな農業技術の開発と普及で、一気に有機農業を加速しようというのが同省の腹づもりのようだ。

 ただし、現時点で有機農業を飛躍的に押し上げる魔法のような技術は存在しない。目標達成までの戦略工程表なるものをみても、新しい有力な技術は10年ぐらい研究開発を続け、2030年から実証や社会実装する絵が描かれているだけで、具体性に乏しい。

 わが国で有機農業を増やしていくという方向は望ましい。一方で農薬と化学肥料を使わない農地を増やすだけでは不十分だ。

 農家の多くが、地域内の資源循環や生物多様性、温暖化効果ガス排出などを自らの問題として考え改善していくようなプロセスが、最初にくるべきだった。有機農業振興は全体の枠組みの中の一つに過ぎない。

 100万ヘクタールという目標だけが一人歩きするのではなく、多くの人たちが納得できる改革方向を話し合うことから始まるべきだった。

 わいわいがやがやという議論の中から、実現可能で意味のある目標が生まれてくる。もう一度、農家や消費者、地方自治体などの当事者と意思疎通することが必要ではないか。

山田 優 (農業ジャーナリスト)

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山田 優(農業ジャーナリスト)
農学博士。1955年生まれ。日本農業新聞記者出身で海外農業を担当してきた。著書に『亡国の密約』(共著、新潮社、2016年)、『農業問題の基層とは何か』(共著、ミネルヴァ書房、2014年)、『緊迫アジアの米――相次ぐ輸出規制』(筑波書房、2005年)などがある。
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