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「低生産性のゾンビ企業は退出すべき」なのか

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【門間前日銀理事の経済診断(32)】無理やり追い出せば不況を悪化させるだけ

公開日: 2020/07/02 (マーケット, ビジネス)

Reuters Reuters

 1990年代のバブル崩壊以来、日本経済は低成長を続けてきた。「失われた20年」と言われてきたが、アベノミクスの下でも戦後最も緩やかな景気回復しか実現できないまま、コロナ不況を迎えてしまった。一部で言われ始めた「失われた30年」は、遠からず誰もが語るフレーズになるかもしれない。

 低成長の背景として、低採算で将来展望も乏しいいわゆるゾンビ企業の存在が、日本経済の生産性を低下させているとよく言われる。長引く低金利政策に対しても、ゾンビ企業の温存につながっているという批判がある。

 しかし、この議論は正しくないと思う。因果関係はむしろ逆である。
低採算の企業が退出すれば経済が良くなるという議論には、重要な前提がある。非効率な企業から解放された経営資源や労働力が、より生産性の高い企業で活用され、それが経済全体の成長につながるという前提である。

 こうした市場経済観は、抽象的なレベルではもっともらしく聞こえるが、現実に即したものとは言い難い。

 経済成長とは、簡単に言えば総所得が増加を続けることである。したがって、退出企業Aから成長企業Bに人が移動することで経済成長が実現するなら、その労働移動を通じて人々の賃金は上がっていかなければならない。

 しかし、企業の廃業等でいったん職を失えば、以前より低い賃金でも働かざるをえない、という立場に追い込まれる人々が現実には多いであろう。その結果、低賃金で人を集められるなら業容を拡大したいと考えている企業が、そういう人々を雇うのである。

 人の移動で新陳代謝や産業構造の変化が起きても、その過程で賃金が上がらないなら、経済全体の成長は限られる。

 まず高い賃金で雇用を増やしたいと考える強気の企業が現れ、そこに引き寄せられる形で低賃金の企業から人が移っていく、という順番で物事が動くことが重要だ。そういう方向の因果関係が支配的にならない限り、人の移動は必ずしも経済成長を意味しない。

 生産性の低い企業がただ退出するだけでは、経済成長が実現しないどころか、当面の景気を悪化させる可能性が高い。

 以上を踏まえれば、日本経済の長期的な低成長も、ゾンビ企業が温存されてきたことが原因なのではなく、成長企業による質の高い雇用の創出が十分ではなかったことに原因があると考えるべきである。

 低金利が低成長の原因というのも正しくない。低金利は非効率な企業だけに優しいわけではなく、むしろ成長企業にとってチャンスのはずである。成長企業の業容拡大で質の高い雇用が生まれ、人々の平均賃金が上昇していく、というメカニズムの作動が本来は期待されているのである。

 質の高い就業機会が十分生まれてこないなら、せめて現状の雇用を守り続けてくれる企業は、たとえ生産性の低い企業であっても、重要なセーフティネットの役割を果たしていることになる。

 したがって、そういう企業を政策によってできるだけ支えることにも、それなりの正当性がある。

 低採算企業を守り過ぎているから経済が成長しないのではなく、経済が成長しないから低採算企業をも守らなければならないのである。とくに今のような不況期においては圧倒的にそうである。

 それでは、成長企業といえども賃金の高い就業機会をもっと多く創出できないのは、なぜなのだろうか。この問いへの答えは簡単ではないが、少なくとも企業の側から見た場合、十分なスキルを持つ労働者が少ないから、というのが一つの答えになりそうだ。

 とくに技術の変化が速い時代には、一度獲得されたスキルでも、早晩新たな技術に置き換えられてその価値は低下していく。時間の経過に伴うスキルの陳腐化を上回るペースで、不断にスキルアップできる仕組みを社会が備えていない限り、賃金の継続的な上昇、ひいては力強い経済成長は実現しない。

 問題は、個々の企業の努力だけでは、経済全体にとって最適な量のスキルアップの機会が、おそらく提供されないという点にある。人材教育は公共財としての側面が強いからである。それならば、社会としてそこに十分な費用をかけることに合意する必要がある。

 もちろん、公的な人材教育の仕組みは今も存在する。ハローワークを通じて職業訓練を受けることができるし、経済的に余裕がない人にはそのための金銭的な支援の制度もある。

 しかし、コロナ危機の前、アベノミクスのもとで失業率が大幅に低下したにもかかわらず、賃金がほとんど上がらなかった経験を踏まえれば、人材教育や転職への公的な支援はなお不足しているとみるべきなのではないか。

 コロナ危機は新たな試練である。多くの企業や産業で、コロナ前には戻れないという認識が広まっている。マクロ的にはリーマンショックを超えると見込まれる規模の不況であるので、政策で守りたくても守りきれない企業も増える可能性が高い。

 新たな職を求める人々へのスキルアップの機会と、そのための金銭的な支援を充実させる必要がある。さもなければ、コロナ危機が否応なく引き起こす産業構造やビジネスモデルの変化も、低成長の歴史をさらに延長するだけになってしまうだろう。

門間 一夫 ( みずほリサーチ&テクノロジーズ エグゼクティブエコノミスト)

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門間 一夫( みずほリサーチ&テクノロジーズ エグゼクティブエコノミスト)
1957年生。1981年東大経卒、日銀入行。調査統計局経済調査課長、調査統計局長、企画局長を経て、2012年から理事。2016年6月からみずほ総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)エグゼクティブ・エコノミスト。著書に『日本経済の見えない真実』(日経BP社)
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